特別徴収の異動届|退職・転勤・一括徴収の書き方
目次
特別徴収の異動届は、社員が辞めたときに必ず出てくる書類です。検索すると、上位には市区町村のページがずらりと並びます。どれも様式のダウンロードと提出先は載っていますが、退職・転勤・一括徴収のそれぞれで、どの欄に何を書くのかを並べて説明しているページはあまり見当たりません。毎月出るものではないので、担当者が前回のやり方を覚えていないことも多い書類です。
この記事では、特別徴収の異動届を、いつまでに出すか・共通して書く欄・3つのパターン(退職で普通徴収にする、一括徴収する、転勤・転職先に引き継ぐ)の書き方に分けて整理します。最後に、eLTAX(エルタックス)での出し方と最近の動きも扱います。読み終えたときに、退職者が出た月に迷わず1枚を書き上げられる状態を目指します。
特別徴収の異動届とは?出すのは給与を払う会社
特別徴収の異動届とは、住民税を給与から天引きしている社員が、退職や転勤などで天引きできなくなったときに、会社が市区町村に出す届出のことです。正式には「給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」と呼ばれています。多くの市区町村が、同じ名前の様式をホームページで配っています。
根拠は地方税法第321条の5第3項です。特別徴収義務者(給与から住民税を天引きして納める会社)は、社員が給与の支払を受けなくなった場合に、氏名や既に徴収した月割額の合計などを書いた届出書を、市区町村長に出さなければならないとされています。
一般に住民税の特別徴収は、6月から翌年5月までの12回に分けて給与から引きます。年の途中で社員が辞めると、残りの月の分が引けなくなります。その残りをどうするかを市区町村に知らせるのが、特別徴収の異動届の役目です。
ポイントはここです。出す先は、会社の所在地ではなく、社員が1月1日に住んでいた市区町村です。住民税はその年の1月1日の住所地で課税されるためです。社員が複数の市区町村に住んでいれば、退職者ごとに出す先が変わります。毎年5月ごろに届く特別徴収税額の決定通知書に、市区町村名と、会社ごとの指定番号が書かれています。
出す場面は退職だけではありません。札幌市の手引きでは、退職のほか、転勤・転職、休職、死亡などで給与の支払を受けなくなった場合に出すよう案内されています。休職で給与が出なくなる場合も対象になります。
特別徴収の異動届はいつまで?提出期限は翌月10日
特別徴収の異動届の提出期限は、異動があった月の翌月10日までです。地方税法施行規則第9条の24で、給与の支払を受けないこととなった日の属する月の翌月10日までに提出しなければならないと定められています。9月30日に退職した社員なら、10月10日が期限です。
翌月10日は、毎月の住民税を納める期限と同じ日です。納付書を出す日に異動届も一緒に出すと覚えておくと、漏れにくくなります。
一括徴収をする場合は、もう1つ日付があります。地方税法施行規則第9条の23で、本人からの一括徴収の申出は、給与の支払を受けないこととなった日の属する月の末日までにするものとされています。退職の月のうちに、本人の意思を確かめておく必要があります。
年度の替わり目は扱いが少し変わります。施行規則第9条の24のただし書では、4月2日から5月31日までに異動があった社員について、新しい年度から特別徴収をする市区町村に出す場合は、その年度の税額の通知があった月の翌月10日までとされています。また、名古屋市は4月1日までの退職について4月15日までの提出を、札幌市も4月15日までの提出を案内しています。新しい年度の税額に反映させるための日付なので、1月から3月の退職者は早めに出しておくのが確実です。
期限を過ぎると、市区町村は退職者の分も天引きを続ける前提で税額を計算したままになります。その結果、会社に届く納付書の金額と実際に引いた額がずれ、あとから本人の徴収方法を切り替える手続きが要ることになります。本人の手元に、払う時期の分からない請求が遅れて届くことになるので、期限内に出すことがいちばんの配慮になります。
特別徴収の異動届の書き方|共通して書く欄
特別徴収の異動届は、市区町村ごとに様式の細部が違いますが、書く欄の並びはほぼ共通です。名古屋市の記入方法の案内をもとに、どのパターンでも書く欄を整理します。
特別徴収の異動届の共通欄の1つ目は、特別徴収義務者の欄です。会社の名称、所在地、担当者の連絡先に加えて、指定番号を書きます。市区町村によっては宛名番号も書きます。どちらも、特別徴収税額の決定通知書(特別徴収義務者用)に書かれています。
共通欄の2つ目は、給与所得者の欄です。異動した社員のフリガナ、氏名、生年月日、個人番号(マイナンバー)、1月1日現在の住所、異動後の住所を書きます。個人番号を書くときは、出す側で本人確認の手順が要るとされています。
共通欄の3つ目は、税額の欄です。特別徴収税額(年税額)、徴収済額、未徴収税額の3つを書きます。年税額は決定通知書の額を写します。徴収済額は、何月分から何月分までをいくら引いたかを書きます。未徴収税額は、年税額から徴収済額を引いた残りです。
ここが間違えやすいところです。年税額は、年度の途中で変更通知が来ていれば、変更後の額を書きます。5月に届いた通知のままの額を書くと、徴収済額と未徴収税額が合わなくなります。給与ソフトに登録してある月割額と、最新の通知書を突き合わせてから書きます。
共通欄の4つ目は、異動の年月日と事由です。退職、転勤、休職、死亡などから、該当するものを番号で選びます。異動の年月日は、給与の支払を受けなくなった日です。
共通欄の5つ目は、未徴収税額の徴収方法です。「特別徴収を継続する」「一括徴収する」「普通徴収にする」のどれかを番号で選び、それぞれの欄に必要なことを書きます。ここから先が、パターンごとの書き方です。
退職で普通徴収にする書き方
退職した社員の残りの住民税を本人が自分で納める形を、普通徴収と呼びます。特別徴収の異動届で、未徴収税額の徴収方法を「普通徴収」にする書き方です。6月から12月までに退職し、本人から一括徴収の申出がなかった場合は、多くがこの形になります。
普通徴収にすると、市区町村から本人に納税通知書が送られ、本人が金融機関などで納めます。会社が書くのは、共通の欄に加えて、本人の退職後の住所です。納税通知書の送り先になるので、退職の手続きのときに確かめておきます。
具体的な例で見てみます。年税額が120,000円、月割額が10,000円の社員が9月30日に退職し、9月分まで給与から引いた場合です。
| 欄 | 書く内容 |
|---|---|
| 特別徴収税額(年税額) | 120,000円 |
| 徴収済額 | 40,000円(6月分から9月分まで) |
| 未徴収税額 | 80,000円 |
| 異動の年月日・事由 | 9月30日・退職 |
| 未徴収税額の徴収方法 | 普通徴収 |
一般には、退職の面談のときに「残りの住民税は、後日ご自宅に届く納付書で納めていただく形になります」と本人に伝えておく会社が多く見られます。退職後に知らない請求が届いたと驚かせないためです。退職後に海外に出るなど本人が納めにくくなる場合は、納税管理人を立てる手続きがあると札幌市の手引きで案内されています。
普通徴収にした場合、会社が9月分を10月10日までに納めれば、10月分以降の納付書は使いません。会社に届く納付書の金額と、実際に引いた額がずれていないかを、異動届を出した月に確かめておきます。
一括徴収の書き方|1月から4月の退職は原則一括
一括徴収とは、残りの住民税を、最後の給与や退職手当からまとめて引いて納める方法です。特別徴収の異動届で、未徴収税額の徴収方法を「一括徴収」にします。地方税法第321条の5第2項ただし書で、時期によって扱いが分かれています。
6月1日から12月31日までの退職は、本人の申出があれば一括徴収できます。申出は退職の月の末日までです。申出がなければ普通徴収になります。
1月1日から4月30日までの退職は、本人の申出がなくても一括徴収します。ただし、5月31日までに支払う給与や退職手当が、残りの税額を超える場合に限られます。札幌市の手引きでは、支払う給与などが残りの税額より少ない場合や、死亡による退職の場合は一括徴収できないと案内されています。
1月31日に退職した例で見てみます。年税額120,000円、1月分まで引いて徴収済額が80,000円なら、未徴収税額は40,000円です。最後の給与から40,000円を引き、引いた月の翌月10日までに、ほかの社員の分と合わせて納めます。異動届には、徴収方法を「一括徴収」とし、一括で引く額と、引く月を書きます。
ポイントはここです。一括で引いた額は、その月の納入書の金額に足して納めます。札幌市の手引きでは、納入書の給与分の欄に、ほかの社員の月割額の合計と一括徴収した税額を合わせて書くよう案内されています。納入書の書き方は市区町村ごとに違うので、出す先の案内に従います。
一般には、退職の時期が6月から12月でも、一括徴収を勧める会社があります。退職後は収入が減ることが多く、本人が納付書で納める手間もなくなるためです。札幌市の手引きでも、一括徴収が便利だと紹介されています。ただし本人の申出が要件なので、会社が勝手に一括で引くことはできません。申出を受けたことは、面談の記録などに残しておきます。
特別徴収の異動届 記入チェックシート(退職・一括徴収・転勤)
給与所得者異動届出書を出す前に、共通の欄と、普通徴収・一括徴収・転勤(特別徴収の継続)の3つのパターンで確かめることを20項目に並べたチェックシートです。
Excelを見る・ダウンロード転勤・転職で新しい勤務先に引き継ぐ書き方
転勤や転職で、新しい勤務先でも給与から引き続けてもらう場合の書き方です。特別徴収の異動届で、未徴収税額の徴収方法を「特別徴収を継続する」にします。
地方税法第321条の4第5項では、社員が新しく給与を払う会社を通じて、元の会社から給与を受けなくなった月の翌月10日(4月中なら4月30日)までに申し出れば、市区町村は新しい会社を特別徴収義務者として指定し、引き続き徴収させるとされています。
書く内容は、共通の欄に加えて、新しい勤務先の名称、所在地、連絡先、分かれば指定番号です。引き継ぐ月割額と、何月分から新しい勤務先で引くのかも書きます。様式によっては、新しい勤務先が記入する欄が設けられています。
札幌市の手引きでは、新しい勤務先に徴収月と月割額を連絡したうえで異動届を出すよう案内されています。先に連絡しておかないと、新しい勤務先は市区町村からの変更通知が届いてから初めて事情を知ることになり、最初の月の天引きが漏れます。社内の転勤であれば、転勤先の事業所の給与担当に連絡します。
新しい勤務先と連絡が取りにくい場合は、いったん普通徴収にする方法もあります。札幌市の手引きでは、その場合は普通徴収に変える異動届を出し、本人から新しい勤務先に特別徴収への切替を頼むよう案内されています。
異動届を受けた市区町村は、前の会社と新しい会社のそれぞれに、特別徴収税額の変更通知書を送ります。前の会社は、変更通知書で自社の月割額から外れたことを確かめてから、給与ソフトの設定を外します。先に外すと、通知が届くまでの間に引き漏れや二重の天引きが起きることがあります。
特別徴収の異動届をeLTAXで出す|最近の動き
特別徴収の異動届は、紙だけでなく地方税の電子申告の仕組みであるeLTAX(エルタックス)でも出せます。札幌市の手引きでは、eLTAXで電子申告できる手続きとして、給与支払報告書と並んで給与所得者異動届出書が挙げられています。無料のeLTAX対応ソフトであるPCdeskや、eLTAXに対応した給与・会計ソフトから出します。
eLTAXで出すよさは、社員の住所地が複数の市区町村にまたがっていても、1か所から出せることです。紙だと市区町村ごとに封筒を分けて送ることになります。eLTAXを使うには、電子証明書の取得などの準備が要るとされています。
最近の動きとして、特別徴収税額の通知の電子化があります。目黒区の案内では、令和6年度(2024年度)分以後、eLTAXで給与支払報告書を出す会社は、特別徴収税額の通知(納税義務者用)を電子データで受け取る方法を選べるようになりました。地方税法第321条の4第8項にもとづく仕組みです。異動届を出したあとに届く変更通知も、受取方法を電子データにしている会社にはeLTAXで届きます。
もう1つは、給与支払報告書の電子提出の義務です。札幌市の手引きでは、前々年の源泉徴収票の税務署への提出枚数が100枚以上だった会社は、給与支払報告書をeLTAXか光ディスクなどで出すことが義務とされていると案内されています。給与支払報告書をeLTAXで出している会社は、同じ仕組みで異動届も出せるので、異動届だけを紙で出し続ける理由はあまりありません。
一方で、名古屋市はファクスや電子メールでの提出は受け付けていないと案内しています。電子で出すならeLTAX、紙なら郵送か窓口、と分けて考えます。提出の方法は市区町村ごとに案内が違うので、出す先のページを確かめるのが確実です。
まとめ
特別徴収の異動届は、住民税を天引きしている社員が退職や転勤で天引きできなくなったときに、会社が社員の1月1日の住所地の市区町村に出す届出です。提出期限は、異動があった月の翌月10日までとされています。
共通して書くのは、会社の指定番号、社員の氏名と個人番号と住所、年税額・徴収済額・未徴収税額、異動の年月日と事由、そして残りの税額の徴収方法です。年税額は最新の変更通知の額を写します。
残りの税額の扱いは3つです。普通徴収にするなら退職後の住所を書きます。一括徴収は、6月から12月の退職なら本人の申出があるとき、1月から4月の退職なら原則として行います。転勤・転職で引き継ぐなら、新しい勤務先に先に連絡してから出します。
eLTAXで出せば、住所地が分かれていても1か所から出せます。自社の扱いで迷う点は、出す先の市区町村の特別徴収の担当や、税理士に確かめるのが確実です。
特別徴収の異動届 記入チェックシート(退職・一括徴収・転勤)
給与所得者異動届出書を出す前に、共通の欄と、普通徴収・一括徴収・転勤(特別徴収の継続)の3つのパターンで確かめることを20項目に並べたチェックシートです。
Excelを見る・ダウンロードよくある質問
Q. 特別徴収の異動届はいつまでに出しますか。 A. 異動があった月の翌月10日までです(地方税法施行規則第9条の24)。9月30日の退職なら10月10日が期限です。
Q. どこに出しますか。 A. 社員が1月1日に住んでいた市区町村です。会社の所在地の市区町村ではありません。特別徴収税額の決定通知書に書かれている市区町村に出します。
Q. 様式はどこで手に入りますか。 A. 出す先の市区町村のホームページで配られています。名前は「給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」が多く、欄の並びはほぼ共通です。
Q. 指定番号はどこに書いてありますか。 A. 毎年5月ごろに届く特別徴収税額の決定通知書(特別徴収義務者用)に書かれています。市区町村ごとに番号が違います。
Q. 一括徴収は会社が決めてよいですか。 A. 6月から12月の退職は、本人の申出があるときだけです。申出は退職の月の末日までとされています。1月から4月の退職は、申出がなくても原則として一括徴収します。
Q. 1月から4月の退職で、最後の給与が残りの税額より少ないときは。 A. 一括徴収はできず、普通徴収になります。異動届の徴収方法を普通徴収にして出します。
Q. 転職先で引き続き天引きしてもらえますか。 A. できます。新しい勤務先を通じて、元の会社から給与を受けなくなった月の翌月10日までに申し出れば、新しい勤務先が特別徴収義務者として指定されるとされています。新しい勤務先に、月割額と開始月を先に伝えておきます。
Q. 休職で給与が出なくなった場合も出しますか。 A. 出します。給与の支払を受けなくなった場合が対象です。復職して給与が出るようになったあとの扱いは、市区町村の特別徴収の担当に確かめます。
Q. 社員が亡くなった場合は。 A. 異動届を出します。札幌市の手引きでは、死亡による退職の場合は一括徴収できないと案内されています。残りの税額は相続人に引き継がれます。
Q. eLTAXで出せますか。 A. 出せます。PCdeskやeLTAX対応の給与ソフトから出します。住所地が複数の市区町村に分かれていても、1か所から出せます。
Q. 期限を過ぎてしまいました。 A. 気づいた時点で出します。市区町村から会社に届く納付書の金額が、実際に引いた額とずれていないかを確かめ、ずれていれば出す先の特別徴収の担当に相談します。
Q. 5月に退職した社員も出しますか。 A. 給与の支払を受けなくなったのであれば対象です。年度の替わり目は、新しい年度の税額への反映の日付が市区町村ごとに案内されているので、出す先のページを確かめます。