訂正削除の防止に関する事務処理規程の作り方
目次
電子取引のデータを保存するのに、規程を作れば足りると聞いた。国税庁のひな形も見つけた。けれど、そのまま使ってよいのか、どこを自社に合わせるのかが分からず、ファイルを開いたまま止まっている。
この記事では、訂正削除の防止に関する事務処理規程を、何のために作るか・書き換えるところ・運用の3つに分けて整理します。読み終えたときに、自社の1枚を作れる状態を目指します。
結論:真実性を、仕組みではなく手続きで満たす
訂正削除の防止に関する事務処理規程とは、電子取引のデータについて、勝手に書き換えたり消したりしない手続きを定めた社内の規程のことです。
電子帳簿保存法では、電子取引データ保存について真実性の確保が求められます。その方法の1つとして、規程を定めて運用することが認められています。
ポイントはここです。タイムスタンプやシステムを入れなくても、規程で満たせます。費用がかからない道なので、中小の事業者の多くがこれを取っています。
ただし、作るだけでは足りません。規程のとおりに運用していることが条件です。ここが、いちばん抜けやすいところになります。
ひな形はどこにあるか
国税庁が、事務処理規程のひな形を公開しています。法人用と個人事業者用の2つがあります。
法人用のほうが条文が多く、個人事業者用は短くなっています。自社の形に近いほうを選びます。
ひな形に入っているのは、目的、適用範囲、管理責任者、電子取引の範囲、取引データの保存、対象となるデータ、運用体制、訂正削除の原則、訂正削除を行う場合の手続きといった条文です。
そのまま使うと、自社にない役職名や手続きが残ります。管理責任者が「経理部長」となっていても、自社に経理部が無いなら意味がありません。
書き換えるところ
ひな形から自社版を作るとき、手を入れるのは4か所です。
1つ目は、管理責任者です。誰が責任者になるかを決めます。役職名でも個人名でもかまいませんが、実在する形にします。
2つ目は、電子取引の範囲です。自社が実際に電子でやり取りしているものを書きます。メールの添付、ウェブからのダウンロード、電子契約、カードの明細データ。無いものまで書かないのが要点です。
3つ目は、保存の場所です。どこに保存するかを書きます。共有フォルダの名前、クラウドのサービス名など、実際の場所を書きます。
4つ目は、訂正削除を行う場合の手続きです。誰に申請して、誰が承認して、どう記録を残すか。自社で回せる形にします。
5人の会社で3段階の承認を書くと、そのとおりに動けません。回せない手続きを書くと、運用していないことになります。短くするほうが安全です。
訂正削除の手続きをどう決めるか
いちばん迷うのが、この部分です。実務でよくあるのは、次の3つの場面です。
1つ目は、取引先から差し替えの請求書が届いた場合です。古いほうを消すのか、両方残すのか。両方残して、新しいほうに「差替」と分かる名前を付ける形が扱いやすくなります。
2つ目は、ファイル名を間違えて付けた場合です。中身は変わらないので、名前だけを直す形になります。これも記録に残す対象にするかを決めておきます。
3つ目は、間違って消してしまった場合です。復元できるなら復元し、経緯を記録します。
記録の残し方は、1行の台帳で足ります。日付、対象のファイル、行ったこと、理由、承認した人。表計算ソフトのシートを1枚用意しておけば回ります。
専用のシステムは要りません。規程で満たす道を選んだ以上、手続きも紙か表計算で回る形にします。
運用に乗せる3つ
規程を作った後、運用に乗せるためにやることが3つあります。
1つ目は、保存の場所を実際にそろえることです。規程に書いた場所と、いま置いている場所が違うなら、どちらかを直します。
2つ目は、担当に伝えることです。電子で受け取ったものを保存するのは、経理だけとは限りません。営業が直接メールで受け取っていることもあります。誰が保存するかを決めて伝えます。
3つ目は、台帳を1枚用意することです。訂正や削除が起きたときに書く場所を先に作っておきます。
年に1回、規程と実際の運用が合っているかを見ます。合っていないなら、規程のほうを実態に寄せます。守れない規程を残すより安全です。
調査で見られるところ
税務調査のときに、規程について見られるのは3つです。
1つ目は、規程があるかです。紙かデータで、すぐ出せる形にしておきます。
2つ目は、規程のとおりに保存されているかです。書いた場所に、書いた形でデータがあるか。
3つ目は、訂正削除の記録があるかです。訂正や削除が起きていないなら記録が無くても問題ありませんが、差替の請求書があるのに記録が無いと、運用していないと見られます。
作成した日と、改定した日が分かる形にしておきます。いつから運用しているかが、要件を満たしている期間を示すことになります。
規程を1枚にまとめる
ひな形の条文をそのまま使うと、A4で数枚になります。人数の少ない会社では、1枚にまとめた形のほうが運用されます。
1枚に入れるのは5つです。対象になるデータ、保存の場所、保存する人、訂正や削除をする場合の手続き、記録の残し方。
対象になるデータは、自社が実際に電子で受け取っているものを箇条書きにします。「メールに添付された請求書」「通販サイトの領収書」のように、具体的に書きます。
保存の場所は、フォルダのパスやサービス名まで書きます。探しに行ける形にしておきます。
手続きは、「訂正や削除をするときは、管理責任者に申し出て、台帳に記録する」の一文で足りることがあります。申請書の様式まで作ると、使われません。
作成した日と改定した日を、必ず入れます。いつから運用しているかが、要件を満たしている期間を示します。
作ったあとに起きること
規程を作ると、社内の運用が少しずつ変わります。起きることを見込んでおくと、対応が早くなります。
1つ目は、保存の場所を聞かれることです。「この請求書はどこに入れればよいか」という問いが出ます。規程に書いた場所を答えれば済みます。
2つ目は、ファイル名の付け方を聞かれることです。規則を決めていないと、人によってばらばらになります。日付・取引先・金額の順と決めて、例を1つ示します。
3つ目は、訂正の申し出です。「間違ったファイルを入れてしまった」という報告が来ます。台帳に1行書いて、正しいものに入れ替えます。
4つ目は、他部署からの問い合わせです。営業や現場が電子で受け取っているものについて、どうすればよいかを聞かれます。
これらは、規程が動いている証拠でもあります。問い合わせが1件も来ないなら、周知が足りていないか、そもそも誰も保存していない可能性があります。
まとめ
訂正削除の防止に関する事務処理規程は、電子取引データの真実性を、仕組みではなく手続きで満たすための規程です。タイムスタンプやシステムを入れなくても要件を満たせます。
国税庁がひな形を公開しています。法人用と個人事業者用があり、書き換えるのは管理責任者、電子取引の範囲、保存の場所、訂正削除の手続きの4か所です。
回せない手続きを書かないことが要点です。人数の少ない会社で何段階もの承認を書くと、そのとおりに動けません。
作るだけでなく、運用することが条件です。保存の場所をそろえ、担当に伝え、記録の台帳を1枚用意します。年に1回、実態と合っているかを見ます。自社の適用は、顧問の税理士に確かめるのが確実です。
よくある質問
Q. 規程はいつから有効になりますか。 A. 定めて運用を始めた日からです。作成した日を規程に書いておきます。さかのぼって適用する形は取れないため、早く作るほど、要件を満たしている期間が長くなります。
Q. 社長1人の会社でも規程が要りますか。 A. 電子取引があり、真実性を規程で満たすなら要ります。個人事業者用のひな形は短いので、そちらから作ります。承認の手続きは、自分で記録を残す形で足ります。
Q. 規程を届け出る必要はありますか。 A. 届出は求められていません。事業所に備え付けて、調査のときに提示できる形にしておきます。
Q. 訂正や削除が一度も起きていない場合、記録は要りませんか。 A. 起きていないなら記録はありません。台帳が空のままでも問題ありません。起きたのに書いていないのが問題になります。
Q. 規程を改定したら、古いものは捨ててよいですか。 A. 残しておくほうが安全です。いつからいつまで、どの規程で運用していたかを示せます。改定の日付を入れて、版ごとに残します。
Q. システムを入れたら規程は不要になりますか。 A. システムで真実性を満たせるなら、規程は要件としては不要になります。ただし、システムの外でやり取りするものが残ることが多いため、規程を併用している会社が多くあります。
Q. 規程の内容を社員に周知する必要はありますか。 A. 運用するのは社員なので、伝えないと回りません。就業規則のような周知の義務が定められているわけではありませんが、保存する人が知らない規程は運用されません。
Q. ひな形の条文を減らしてもよいですか。 A. 自社に無い手続きを消すのは問題ありません。ただし、真実性の確保に必要な部分まで消すと要件を満たさなくなります。訂正削除の原則と手続きの部分は残します。
Q. 規程を1枚にすると、要件を満たさなくなりませんか。 A. 条文の数ではなく、内容で判断されます。訂正削除の原則と手続きが書かれていれば、短くても足ります。回せる形にすることのほうが大事です。
Q. 管理責任者は誰にすればよいですか。 A. 実際にデータを管理している人にします。社長1人の会社なら社長です。実在して、その役割を果たせる人であることが条件になります。
Q. 台帳に書く「理由」は、どこまで詳しく書きますか。 A. 何が起きたかが分かる程度で足ります。「取引先から差し替えの請求書を受領したため」といった1行です。後から読んだ人が経緯を追えることが目的になります。
Q. 規程を作ったのに、誰も保存していない状態に気づくには。 A. 月に1回、保存の場所を開いて件数を数えます。前の月と大きく違う、あるいはゼロなら、保存されていません。数えるだけで気づけます。
Q. 担当が辞めたとき、何を引き継ぎますか。 A. 規程そのもの、保存の場所、台帳、そしてなぜその形にしたかです。理由が分からないと、新しい担当が自己流に変えてしまいます。
Q. 規程を作った日より前のデータは、どう扱いますか。 A. 規程の効力は作成した日からです。それより前のデータについては、他の方法で真実性を満たせるかを確かめます。早く作るほど、要件を満たしている期間が長くなります。
Q. 複数の事業所がある場合、規程は事業所ごとに作りますか。 A. 法人として1つ作る形が一般的です。事業所ごとに保存の場所が違うなら、規程の中で場所を列挙します。事業所ごとに別の規程にすると、改定のたびに数が増えます。
Q. 台帳に記録する人と、承認する人は分けるべきですか。 A. 分けられるなら分けたほうが、確認が効きます。人数が少なく分けられない場合は、記録を残すこと自体が確認の代わりになります。規程に書いた形と実際をそろえるのが要点です。
Q. 訂正や削除が起きないよう、あらかじめできることはありますか。 A. 保存の場所の権限を絞る方法があります。書き込める人を限り、他の人は読み取りだけにします。そもそも直せない形にしておくと、台帳に書く場面も減ります。
Q. 規程の内容を、取引先に示すことはありますか。 A. 通常はありません。社内の運用を定めたものなので、外部に示すものではありません。調査のときに税務職員へ提示します。
Q. 規程のひな形を、他社のものを参考にしてもよいですか。 A. 国税庁のひな形を使うのが確実です。他社のものは、その会社の体制に合わせて書かれています。自社に無い部署名や役職が残ると、運用できません。