取引時確認記録とは?本人確認を7年残す決まり
目次
古物の買い取りや、宅建業、貴金属の売買。相手の身分を確かめる決まりがあるのは知っているが、確かめた記録をどこまで残すのかがはっきりしない。台帳には書いているものの、それで足りているのかが分かりません。
この記事では、取引時確認記録を、どの事業者にかかるか・確かめる内容・保存の3つに分けて整理します。読み終えたときに、自社の記録が足りているかを判断できる状態を目指します。
結論:特定事業者が、確認した内容を7年残す
取引時確認記録とは、犯罪による収益の移転防止に関する法律で定められた特定事業者が、取引の相手について確認した内容を残す記録のことです。
対象になるのは特定事業者です。金融機関のほか、宅地建物取引業者、貴金属等取扱事業者、司法書士、行政書士、税理士、弁護士などが挙げられています。
ポイントはここです。保存の期間は7年とされています。他の業法の帳簿より長いことが多いため、同じ棚に入れていると短いほうに合わせて捨てる事故が起きます。
古物営業については、古物営業法の側で本人確認と台帳の定めがあります。根拠になる法律が別なので、自社がどちらに当たるかを先に確かめます。
確かめる内容
確認するのは、大きく4つとされています。
1つ目は、本人特定事項です。個人なら氏名、住居、生年月日。法人なら名称と本店または主たる事務所の所在地。
2つ目は、取引を行う目的です。何のための取引かを確かめます。
3つ目は、職業または事業の内容です。個人なら職業、法人なら事業の内容。
4つ目は、実質的支配者です。法人の場合、その法人を実質的に支配している自然人を確かめます。
4つ目がいちばん抜けやすいところです。法人と取引するとき、担当者の身分証だけを見て終わりにしていると、実質的支配者の確認が漏れます。
確認の方法も定められています。本人確認書類の提示を受ける方法、写しの送付を受ける方法などです。コピーを取るだけでよいのか、原本を見る必要があるのかは、方法によって変わります。
記録に残すこと
確認した記録には、書く内容が決まっています。
確認を行った日付、確認した方法、本人特定事項、取引の目的、職業または事業の内容、実質的支配者に関する事項、確認を行った担当者。
抜けやすいのは、確認の方法と担当者です。「身分証を確認」とだけ書いてあると、どの書類をどう確かめたかが分かりません。
本人確認書類の写しを取った場合、その写しも記録と一緒に保存します。記録と写しが別々の場所にあると、後から突き合わせられません。
取引の記録も、別に作成して保存することが求められています。取引時確認の記録と取引の記録は別のものです。混ぜずに、どちらも残します。
保存の起算日
7年をいつから数えるかで迷います。
取引時確認の記録は、特定取引等に係る契約が終了した日などから7年とされています。取引の記録は、取引が行われた日から7年です。
継続的な取引がある相手の場合、契約が終わるまで起算が始まりません。長く付き合っている相手の記録は、7年よりずっと長く残ることになります。
つづりの表紙に、起算の考え方と処分の予定年を書いておきます。取引が続いている相手は「継続中」と書いておくと、誤って捨てません。
疑わしい取引の届出
取引時確認とセットで出てくるのが、疑わしい取引の届出です。
取引の相手や態様から、犯罪による収益ではないかと疑われる場合に、行政庁へ届け出ることとされています。
判断の参考として、事業の分野ごとに疑わしい取引の参考事例が公表されています。自社の分野のものを一度読んでおくと、社内で共有する材料になります。
届け出たことを、取引の相手に知らせてはならないとされています。社内でも、知る範囲を限る形にしておきます。
社内の体制
義務を回すために、決めておくことが4つあります。
1つ目は、誰が確認するかです。窓口の担当が行う形が一般的です。担当が複数いるなら、全員が同じ手順でできる形にします。
2つ目は、確認の手順書です。どの書類を見て、何を書き写し、写しを取るかどうか。1枚にまとめて、窓口に置きます。
3つ目は、記録の保管場所です。7年分が積み上がるので、置き場所を先に決めます。
4つ目は、社内の研修です。実質的支配者の確認や、疑わしい取引の判断は、手順書だけでは伝わりにくい部分があります。
担当が1人だと、その人が休んだ日に確認が甘くなります。手順書があれば、代わりの人でも同じ形で回せます。
確認の手順を1枚にする
窓口で迷わないように、確認の手順を1枚にまとめておきます。書くのは5つです。
1つ目は、確認が必要な取引の種類です。どの取引のときに確認するかを列挙します。
2つ目は、確かめる内容です。本人特定事項、取引の目的、職業または事業の内容、実質的支配者。
3つ目は、確認の方法です。どの書類の提示を受けるか、写しを取るか。
4つ目は、記録に書くことです。日付、方法、内容、担当者。
5つ目は、断られたときの対応です。確認に応じない相手について、どう扱うかを決めておきます。
この1枚を窓口に置いておくと、担当が代わっても同じ形で確認できます。判断が要る場面を減らすのが、続ける形にするいちばんの近道です。
保存の年数が違うものを混ぜない
取引時確認記録は7年、業法の台帳は3年や5年。年数が違うものを同じ棚に入れると、短いほうに合わせて捨てる事故が起きます。
防ぎ方は3つです。
1つ目は、つづりを分けることです。取引時確認の記録だけを別のつづりにします。
2つ目は、表紙に年数と処分の予定年を書くことです。中を見なくても判断できる形にします。
3つ目は、起算日の考え方を書いておくことです。契約が終了した日から数えるのか、取引が行われた日から数えるのか。継続中の取引は「継続中」と書いておきます。
年に1回、処分の作業をするときに、表紙だけを見て回れる形になっていれば、作業は短く済みます。開いて中身を確かめないと判断できない状態が、いちばん時間を使います。
担当が代わるときの引き継ぎ
窓口の担当が代わるとき、引き継ぐものを決めておきます。
1つ目は、確認の手順書です。どの書類を見て、何を書き写すか。
2つ目は、直近の記録の実例です。個人の取引、法人の取引、実質的支配者の確認があった取引。型の違うものを3件選んで見せると、書き方が伝わります。
3つ目は、疑わしい取引の参考事例です。判断の材料になります。
4つ目は、相談先です。所管の行政庁の窓口と、社内で判断する人。
引き継ぎのときに、前任者と一緒に1件やってみるのがいちばん早く伝わります。手順書だけでは、実質的支配者の確認のような場面で迷います。
規程と研修
取引時確認は、手順書だけでは伝わりにくい部分があります。実質的支配者の確認や、疑わしい取引の判断です。
社内でやっておくと効くのが3つあります。
1つ目は、年に1回の研修です。参考事例を読み合わせるだけでも、判断の目線がそろいます。
2つ目は、迷った事例の共有です。実際に迷った取引を、個人が特定されない形で共有します。次に同じ場面が来たときに動けます。
3つ目は、相談の経路です。窓口の担当が迷ったときに、その場で誰に聞けるか。決まっていないと、判断を先送りするか、自己流で決めることになります。
研修の記録も残しておきます。体制を整えていることを示す材料になります。内容と日付、参加者を1枚に残せば足ります。
まとめ
取引時確認記録は、犯罪による収益の移転防止に関する法律の特定事業者が、取引の相手について確認した内容を残す記録です。宅建業者、貴金属等取扱事業者などが対象になります。
確かめるのは、本人特定事項、取引を行う目的、職業または事業の内容、実質的支配者の4つです。実質的支配者の確認が、いちばん抜けやすいところです。
記録には、確認の日付、方法、確認した内容、担当者を残します。確認の方法と担当者が抜けやすい項目です。取引時確認の記録と取引の記録は別のものなので、どちらも残します。
保存の期間は7年です。他の業法の帳簿より長いため、同じ棚に入れていると短いほうに合わせて捨てる事故が起きます。自社が特定事業者に当たるかは、所管の行政庁に確かめるのが確実です。
よくある質問
Q. 古物商は特定事業者に当たりますか。 A. 古物営業法の側で本人確認と台帳の定めがあります。犯罪収益移転防止法の特定事業者の範囲とは別の枠組みなので、自社がどちらの義務を負うかを所管の窓口に確かめます。
Q. 少額の取引でも確認が要りますか。 A. 取引の種類によって、確認が必要になる金額の基準が定められている場合があります。基準を下回る取引でも、疑わしい場合には確認が求められる形があります。自社の分野の基準を確かめます。
Q. 実質的支配者は、どうやって確かめますか。 A. 法人の株主の状況などから確かめます。取引の相手から申告を受ける方法が定められています。登記事項証明書や株主名簿の提示を受ける形を取っている事業者もあります。
Q. 本人確認書類の写しは、必ず取りますか。 A. 確認の方法によって扱いが変わります。提示を受けて記録する方法と、写しの送付を受ける方法では、残すものが違います。自社が取る方法を決めて、手順書に書いておきます。
Q. 記録を電子データで保存してもよいですか。 A. データで保存する形も取れます。7年間、いつでも確かめられる形にしておきます。個人情報が含まれるため、権限を絞った場所に置きます。
Q. 同じ相手と何度も取引する場合、毎回確認しますか。 A. すでに確認を行っている相手について、簡素な方法が認められる場合があります。ただし、なりすましの疑いがある場合などは改めて確認することとされています。
Q. 確認を拒まれた場合はどうしますか。 A. 確認に応じない相手については、取引に係る義務の履行を拒むことができる旨が定められています。その場合の社内の対応も、手順書に書いておきます。
Q. 7年が過ぎた記録は、どう処分しますか。 A. 個人情報が含まれるため、溶解や裁断など復元できない形で処分します。処分した日と対象を1行残しておくと、後から探されたときに説明できます。
Q. 法人の取引で、担当者の身分証だけ見ればよいですか。 A. 取引の相手は法人なので、法人の本人特定事項と、実質的支配者の確認が必要になります。担当者の確認は、取引を行う人としての確認で、別のものです。
Q. 確認の記録と、業法の台帳を兼ねられますか。 A. 根拠になる法律が違うため、兼ねるなら両方の項目が入っている必要があります。保存の期間も違うことがあるので、分けて持つほうが管理しやすくなります。
Q. 疑わしい取引の参考事例は、どこで見られますか。 A. 所管の行政庁が、事業の分野ごとに公表しています。自社の分野のものを一度読んで、社内で共有しておくと判断の材料になります。
Q. 7年が過ぎたあとも残しておいてよいですか。 A. 残すこと自体が禁じられているわけではありません。ただし、個人情報を必要以上に持ち続けることになります。残すなら理由をはっきりさせ、置き場所と見られる範囲を決めておきます。
Q. 電子で保存する場合、紙の原本は捨ててよいですか。 A. 原本の保存が求められているものかどうかで変わります。本人確認書類の写しの扱いも含めて、所管の行政庁に確かめるのが確実です。
Q. 記録の様式は決まっていますか。 A. 法令で様式が定められているわけではありません。求められる項目が入っていれば、自社で作れます。所管の行政庁が参考の様式を示していることもあります。
Q. 疑わしい取引に当たるか迷ったときは。 A. 参考事例と照らし、社内で相談します。迷ったこと自体を記録に残すと、後から経緯を説明できます。判断に迷う場合は、所管の行政庁に相談する道もあります。
Q. 確認を簡素にできるのはどんな場合ですか。 A. すでに確認を行っている相手について、簡素な方法が認められる場合があります。ただし、なりすましの疑いがある場合などは改めて確認します。どの場合に簡素にできるかを手順書に書いておきます。