賃金台帳の書き方|8つの記載事項と労働時間数の欄
目次
賃金台帳は、給与明細を並べておけば済むと思われがちですが、給与明細に載っていない欄が3つあります。労働日数、労働時間数、そして時間外・休日・深夜の時間数です。明細から数字を写す作り方をしていると、この3つが空欄のまま台帳ができあがります。
この記事では、賃金台帳を、8つの記載事項、労働時間数の欄に何を書くか、書かなくてよい人と欄、給与明細との違い、保存期間の順に整理します。記載事項や保存期間は改正が入る項目です。自社の扱いは所轄の労働基準監督署に確認してください。
結論:記載事項は8つ。時間数の欄が3つある
賃金台帳の記載事項は、労働基準法108条と労働基準法施行規則54条1項で、次の8つとされています。
| 記載事項 | |
|---|---|
| 1 | 氏名 |
| 2 | 性別 |
| 3 | 賃金計算期間 |
| 4 | 労働日数 |
| 5 | 労働時間数 |
| 6 | 時間外労働時間数・休日労働時間数・深夜労働時間数 |
| 7 | 基本給、手当その他賃金の種類ごとにその額 |
| 8 | 賃金の一部を控除した場合には、その額 |
8つのうち3つが時間の欄です。4の労働日数、5の労働時間数、6の時間外・休日・深夜の時間数。金額の欄は7と8の2つしかありません。賃金台帳という名前から金額の帳簿だと思われがちですが、実際には半分が勤怠の記録という構成になっています。
様式は、労働基準法施行規則55条で次のように分かれています。
| 対象 | 様式 |
|---|---|
| 常時使用される労働者(1か月を超えて引き続き使用される日雇いを含む) | 様式第20号 |
| 日々雇い入れられる者(1か月を超えて引き続き使用される者を除く) | 様式第21号 |
一般には、給与計算ソフトが出力する賃金台帳をそのまま使っている事業所が多くあります。ポイントは、そのソフトの出力に時間数の欄が入っているかを一度だけ確かめることです。出力の設定によっては、金額だけの一覧になっていることがあります。
労働時間数の欄には、割増後の時間を書かない
賃金台帳でいちばん間違えやすいのが、5と6の時間数の欄です。ここに書くのは、実際に働いた時間数であって、割増率をかけた後の数字ではありません。
たとえば時間外労働が10時間あったとします。
| 書く数字 | |
|---|---|
| 正しい | 時間外労働時間数 10時間 |
| よくある誤り | 12.5時間(10時間 × 1.25) |
給与計算では「10時間 × 1.25 × 時間単価」で金額を出しますが、台帳の時間数の欄に入れるのは、割増をかける前の10時間です。1.25をかけた数字を入れてしまうと、月の総労働時間と合わなくなり、調査のときに説明がつきません。
時間外・休日・深夜は分けて書く
6の欄は、3つの時間数をまとめて1つにするのではなく、分けて書くものとされています。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 時間外労働時間数 | 法定労働時間を超えて働いた時間 |
| 休日労働時間数 | 法定休日に働いた時間 |
| 深夜労働時間数 | 午後10時から午前5時までに働いた時間 |
深夜労働は、時間外労働と重なることがあります。残業して午後11時まで働いた場合、その1時間は時間外労働であると同時に深夜労働です。両方の欄にそれぞれ計上する形になります。片方だけに入れると、深夜の割増が漏れていないかが台帳から確かめられなくなります。
なお、就業規則で法定より短い所定労働時間や多い休日を定めている場合は、その就業規則に基づいて算定した労働時間数で代えることができるとされています(労働基準法施行規則54条2項)。
賃金計算期間の書き方
3の賃金計算期間は、締め日から締め日までを書きます。支払日ではありません。ここが「翌月払いのときにどう書くか」で迷うところです。
月末締めの翌月25日払いなら、次のようになります。
| 欄 | 書く内容 |
|---|---|
| 賃金計算期間 | 2026年8月1日から2026年8月31日まで |
| 支払日 | 2026年9月25日 |
台帳の行は、支払った月ではなく計算期間の月で並べるのが扱いやすい形です。支払月で並べると、8月分の残業時間が9月の行に入ることになり、出勤簿と突き合わせるときに1か月ずれます。
日雇いの人は賃金計算期間を書かなくてよい
労働基準法施行規則54条4項で、日々雇い入れられる者(1か月を超えて引き続き使用される者を除く)については、賃金計算期間を記入することを要しないとされています。その日ごとに完結するため、期間という概念が無いからです。
ただし、1か月を超えて続けて働いてもらった場合は、常時使用される労働者と同じ扱いになり、様式第20号で賃金計算期間も書くことになります。短期のつもりで始まった仕事が続いたときは、扱いが変わる時点を見ておきます。
書かなくてよい欄がある人
労働基準法施行規則54条5項に、法41条各号のいずれかに該当する労働者と、法41条の2第1項により労働させる労働者については、5号(労働時間数)と6号(時間外・休日・深夜の時間数)を記入することを要しないという定めがあります。
41条各号に当たるのは、一般に次のような人です。
| 区分 | 例 |
|---|---|
| 農業・水産業に従事する者 | 41条1号 |
| 監督もしくは管理の地位にある者、機密の事務を取り扱う者 | 41条2号(いわゆる管理監督者) |
| 監視または断続的労働に従事する者で行政官庁の許可を受けた者 | 41条3号 |
| 高度プロフェッショナル制度の対象者 | 41条の2 |
ここで気をつけたいのが、深夜割増は管理監督者にも適用されるとされていることです。規則の文言としては6号の記入を要しないとなっていますが、深夜に働かせた分の割増賃金は別途必要になります。台帳に書く義務の話と、割増を払う義務の話は別です。
実務としては、管理監督者についても深夜の時間だけは把握しておくほうが安全です。台帳の欄を空けるかどうかにかかわらず、支払いの根拠になる記録は要ります。この扱いは判断が分かれるところなので、所轄の労働基準監督署に確認してください。
そして、役職名が課長だから管理監督者、という判断はされません。職務内容、権限、待遇の実態で判断されるとされています。台帳の欄を空ける前に、そこが当てはまるかを確かめておきます。
給与明細と賃金台帳は別のもの
一般には、給与明細の控えをファイルしておけば賃金台帳の代わりになる、と思われていることがあります。ただ、2つは目的も記載事項も違う書類です。
| 給与明細 | 賃金台帳 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 所得税法231条(支払明細書の交付) | 労働基準法108条 |
| 誰のため | 本人に渡すもの | 事業場に備えるもの |
| 労働日数 | 載っていないことがある | 必要 |
| 労働時間数 | 割増後の金額のみのことが多い | 実時間が必要 |
| 期間 | 1か月分 | 継続して1人分が並ぶ |
給与明細をそのまま綴じると、労働日数と時間数が抜けます。明細に時間数を印字している場合でも、時間外・休日・深夜が分かれていないことがあります。
とはいえ、明細と台帳を別々に作る必要はありません。給与計算ソフトの多くは、同じデータから明細と台帳の両方を出力できます。出力のメニューに「賃金台帳」があるかを見て、無ければ項目を追加した形式で出せないかを確かめます。
賞与も賃金台帳に書く
賞与は賃金に当たるため、賃金台帳に記載するものとされています。毎月の給与とは別の行になりますが、7の「賃金の種類ごとにその額」に含まれます。
現物で支給するもの(通勤定期券の現物支給など)がある場合は、労働基準法施行規則54条3項で、その評価総額を記入するとされています。金額が付かないまま「現物支給」とだけ書くと、記載事項を満たしていない状態になります。
賃金台帳の保存期間と起算日
賃金台帳の保存期間は、労働基準法109条で5年とされ、経過措置により当分の間は3年が適用されるとされています(同法附則143条)。
起算日は、労働基準法施行規則56条1項2号で最後の記入をした日と定められています。さらに同条2項で、賃金の支払期日が最後の記入をした日より遅い場合は、支払期日が起算日になるとされています。
| 締め・支払い | 起算日 |
|---|---|
| 月末締め・当月末払い | 最後の記入をした日 |
| 月末締め・翌月25日払い | 翌月25日(支払期日のほうが遅いため) |
在職中の人は、毎月記入が続くため保存期間が始まりません。年度で区切って古い年の分を処分すると、まだ期間が来ていないものを捨てたことになります。処分の判断は、退職して最後の給与を払ったあとに行う形になります。
3つの帳簿で起算日が違うので、退職者の書類はいちばん遅い起算日にそろえて1つの束にするのが扱いやすい形です。詳しくは法定帳簿の保存期間にまとめています。
控除の欄に書けるもの、書けないもの
8の控除額の欄は、金額を書くだけの欄に見えますが、そもそも給与から差し引いてよいものが決まっています。労働基準法24条1項で、賃金は全額を支払うこととされ、例外が2つ挙げられています。
| 区分 | 例 | 根拠 |
|---|---|---|
| 法令に定めがあるもの | 所得税、住民税、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料 | 法24条1項ただし書き |
| 労使協定を結んだもの | 社宅の家賃、社員食堂の食事代、組合費、財形貯蓄 | 同(書面による協定) |
社宅の家賃や食事代を差し引くには、労使協定が要るとされています。本人が同意しているから、就業規則に書いてあるから、という理由だけでは足りません。賃金台帳の控除欄に法定控除以外の項目が並んでいるなら、対応する労使協定があるかを確かめておきます。
一般には、給与計算ソフトの控除項目をそのまま使っている事業所が多くあります。項目を追加するときに協定の話まで戻らないことが多いので、控除項目を1つ足すときに協定の有無を見るという運用にしておくと漏れません。
なお、貸付金の返済を給与から天引きする場合も労使協定の対象になります。金額が大きくなりやすく、後から問題になりやすいところです。
賃金台帳を毎月そろえる手順
賃金台帳は、給与計算の流れの中で作ってしまうのが手数の少ないやり方です。後からまとめて作ろうとすると、時間数の欄を埋めるために勤怠を見直すことになります。
- 出勤簿・タイムカードを締めて、労働日数と労働時間数を集計する
- 時間外・休日・深夜の時間数を、それぞれ分けて出す
- 集計した時間数を、そのまま賃金台帳の時間の欄に入れる
- 時間数をもとに割増賃金を計算し、基本給・手当とあわせて金額の欄に入れる
- 控除額を入れて、差引支給額を出す
- 同じデータから給与明細を出力して本人に渡す
3を飛ばすと、あとで必ず戻ってくることになります。4から始めて金額だけを埋めていくと、台帳の時間の欄が空欄のまま残り、調査のときに勤怠の集計をやり直すことになります。
毎月の確認は2か所だけ
毎月すべてを見直す必要はありません。見るのは次の2か所で足ります。
| 見るところ | ずれていたときに疑うもの |
|---|---|
| 出勤簿の残業時間と、台帳の時間外労働時間数が一致するか | 集計の取り込み漏れ、締め日のずれ |
| 賃金計算期間の月と、出勤簿の月が一致するか | 支払月で行を並べている |
この2つが合っていれば、あとから突き合わせる作業がなくなります。ずれを見つけるのは、月をまたぐ前がいちばん安いです。半年分たまってから直すと、どの月が正しかったのかを判断する材料が減ります。
よくある質問
賃金台帳は手書きで作ってもよいですか
構わないとされています。様式が定められていますが、労働基準法施行規則59条の2で、必要な事項が入っていれば異なる様式を用いてよいとされています。手書き、Excel、給与計算ソフトのいずれでも、記載事項がそろっていれば問題ありません。
労働時間数はどこから持ってきますか
出勤簿やタイムカードの集計から持ってきます。給与明細から逆算しないのがポイントです。明細に載っているのは割増後の金額なので、そこから時間を復元すると端数が合いません。書き方は出勤簿の書き方にまとめています。
アルバイトの賃金台帳も必要ですか
必要とされています。雇用形態で対象から外れることはありません。時給制の場合も、労働日数・労働時間数・時間外の時間数を書く欄は同じです。
賃金台帳をもらうことはできますか
労働者本人が会社に請求する仕組みは、法律上は定められていません。ただし、未払賃金の請求や労災の手続きで必要になる場合があります。求め方については、所轄の労働基準監督署や社会保険労務士に相談するのが確実です。
役員の分も賃金台帳に書きますか
労働者でない役員は対象外とされています。役員報酬は賃金ではないためです。ただし使用人兼務役員のように労働者としての性格も持つ場合は扱いが変わることがあるため、所轄の労働基準監督署に確認してください。
まとめ
賃金台帳の記載事項は8つです。氏名・性別・賃金計算期間・労働日数・労働時間数・時間外と休日と深夜の時間数・賃金の種類ごとの額・控除額が、労働基準法108条と施行規則54条に定められています。
8つのうち3つが時間の欄で、ここが給与明細には載っていない部分です。明細から数字を写す作り方をしていると、労働日数と時間数が空欄のまま残ります。
時間数の欄に書くのは、割増率をかける前の実際の時間です。10時間の時間外労働なら、書くのは10時間で、12.5時間ではありません。時間外・休日・深夜は分けて書き、残業して午後10時を過ぎた分は両方に計上します。
保存期間は5年(当分の間3年)で、起算日は最後の記入をした日です。賃金の支払期日がそれより遅いときは、支払期日から数えます。翌月払いなら1か月ずれるので、退職者の書類を処分する年を決めるときに効いてきます。
作る順番を変えるだけで、賃金台帳は給与計算の副産物になります。勤怠の集計を台帳の時間欄に入れてから金額を計算する形にしておけば、毎月の手間はほとんど増えません。
記載事項と保存期間は改正が入る項目です。自社の扱いは、所轄の労働基準監督署に確認してください。