労働者名簿の書き方|9つの記載事項と履歴欄
目次
労働者名簿は、記載事項が9つあると言われますが、そのうち3つだけが法律の本体に、残る6つが施行規則に書かれているという分かれ方をしています。手が止まるのはたいてい「履歴」の欄で、ここだけ何をどこまで書くのかが法令に定められていません。
この記事では、労働者名簿を、9つの記載事項、履歴欄の埋め方、誰が書くのか、更新のタイミング、保存期間の順に整理します。記載事項の9つを入れた様式を一度そろえてしまえば、あとは入社と退職のときに触るだけの書類になります。最初に作る様式で、9つが全部あるかだけ確かめておく**のが、いちばん手数の少ないやり方です。
記載事項は改正が入ることがあります。自社の様式で足りているかは、所轄の労働基準監督署に確認してください。**
結論:記載事項は9つ。様式第19号が基本の形
労働者名簿の記載事項は、労働基準法107条1項と、労働基準法施行規則53条を合わせた9つとされています。
| 記載事項 | 根拠 | |
|---|---|---|
| 1 | 氏名 | 法107条 |
| 2 | 生年月日 | 法107条 |
| 3 | 履歴 | 法107条 |
| 4 | 性別 | 規則53条 |
| 5 | 住所 | 規則53条 |
| 6 | 従事する業務の種類 | 規則53条 |
| 7 | 雇入の年月日 | 規則53条 |
| 8 | 退職の年月日及びその事由(解雇の場合はその理由を含む) | 規則53条 |
| 9 | 死亡の年月日及びその原因 | 規則53条 |
様式は様式第19号が示されていますが、労働基準法施行規則59条の2で、様式は「必要な事項の最少限度を記載すべきことを定めるもの」であって、異なる様式を用いることを妨げないとされています。つまり、9つが入っていれば自社の様式で構いません。
一般には、市販の様式や無料のExcelをそのまま使っている事業所が多くあります。ポイントは、9つが全部入っているかを一度だけ確かめておくことです。古いひな形には「本籍」が残っていることがあり、これは現在の記載事項ではありません。
従業者名簿とは別のもの
紛らわしいのが「従業者名簿」という書類です。宅地建物取引業や職業紹介事業などで、それぞれの業法に基づいて備える名簿があり、記載事項も保存期間も労働者名簿とは別のルールになっています。
宅地建物取引業の従業者名簿は2025年4月に記載事項が変わり、性別と生年月日が外れました。労働者名簿のほうは生年月日も性別も記載事項のままです。「名簿の改正で生年月日が要らなくなった」という話を見かけても、それが労働者名簿の話かどうかは確かめてください。
労働者名簿の対象になる人、ならない人
労働者名簿は、事業場ごとに、各労働者について作るものとされています。正社員だけではありません。
| 働き方 | 労働者名簿 |
|---|---|
| 正社員・契約社員・パート・アルバイト | 必要 |
| 日々雇い入れられる人 | 不要(法107条1項のかっこ書き) |
| 派遣で受け入れている人 | 派遣元が作る。受入側は派遣先管理台帳 |
| 役員(労働者でない場合) | 不要 |
日々雇い入れられる人だけが外れるのが、労働者名簿の特徴です。賃金台帳のほうは日雇いの人も様式第21号で対象になるので、3つの帳簿で対象が完全に一致しているわけではありません。
短期のアルバイトは「日々雇い入れられる人」ではありません。1週間の予定で来てもらう場合は、期間の定めのある雇用なので労働者名簿が必要になります。日雇いに当たるかどうかは契約の形で決まるため、判断に迷うときは所轄の労働基準監督署に確認するのが確実です。
常時30人未満なら1つ減る
労働基準法施行規則53条2項に、常時30人未満の労働者を使用する事業においては「従事する業務の種類」を記入することを要しないという定めがあります。
とはいえ、書いておくほうが自社にとって役に立ちます。従事する業務の種類は、健康診断の種類を決めるときや、労災が起きたときの状況説明でそのまま使えます。省ける欄ではありますが、埋めるコストはほとんどありません。
履歴欄に何をどこまで書くか
労働者名簿でいちばん手が止まるのが「履歴」です。法律にも施行規則にも、何をどこまで書くかの定めがありません。そのため、書く範囲は事業所の判断に委ねられている、という説明が一般的です。
一般には、次の2つに分けて考えられています。
| 区分 | 書く内容の例 |
|---|---|
| 社内の履歴 | 配属、異動、昇格・降格、職種の変更、出向 |
| 社外の履歴 | 最終学歴、前職の会社名と在籍期間、保有資格 |
社内の履歴だけでも記載事項を満たしているという扱いが広く取られています。社外の履歴まで細かく書くと、更新の手間が増えるうえに、採用時の情報をそのまま保管し続けることになります。
迷ったときの決め方
履歴欄は、「後から誰かが見て、その人の立場の移り変わりが分かるか」で決めるのが扱いやすい線です。
- 入社時点の最終学歴を1行
- 入社後の配属・異動・昇格を、日付とあわせて1行ずつ
- 業務に必要な資格を取ったらその行を足す
この3つで足ります。日付を必ず入れることがポイントです。日付が無いと、あとから並べ替えたときに順番が分からなくなります。
履歴書を提出してもらっている場合は、履歴書そのものを労働者名簿の代わりにはできません。記載事項が一致しないためです。ただし、履歴書を綴じておけば履歴欄を書くときの元資料になります。
誰が書くのか、いつ更新するのか
労働者名簿を作る義務は使用者(会社側)にあるとされています。本人に下書きしてもらうこと自体は問題ありませんが、内容が正しいことに責任を持つのは会社です。
実務としては、入社時に本人から提出してもらった情報をもとに、会社が名簿の形に整えるのが一般的です。本人の自己申告のままにしておくと、住所や氏名の表記が住民票と食い違ったまま残ることがあります。
更新が必要になる場面
労働者名簿は、作って終わりではありません。記載事項に変更があったら遅滞なく訂正するものとされています(労働基準法107条2項)。
| 起きること | 更新する欄 |
|---|---|
| 引っ越し | 住所 |
| 結婚・離婚などによる改姓 | 氏名 |
| 異動・昇格・職種変更 | 履歴、従事する業務の種類 |
| 退職 | 退職の年月日及びその事由 |
| 死亡 | 死亡の年月日及びその原因 |
いちばん抜けるのは住所です。年末調整や社会保険の手続きでは新しい住所を使っているのに、労働者名簿だけ入社時のまま、という形がよくあります。住所変更の届出を受けたときに、更新する先を一覧にしておくと漏れません。
退職事由の書き方
退職の欄は、事由まで書くことになっています。解雇の場合は、その理由も含めるとされています。
- 自己都合退職、契約期間満了、定年退職、会社都合退職
- 解雇の場合は、解雇に至った理由
あいまいに「退職」とだけ書かないことがポイントです。離職票や雇用保険の手続きで書いた区分と、労働者名簿の記載がずれていると、あとで説明が必要になります。手続きのときに同じ言葉を使うようにそろえておきます。
労働者名簿の保存期間と起算日
労働者名簿の保存期間は、労働基準法109条で5年とされ、経過措置により当分の間は3年が適用されるとされています(同法附則143条)。
起算日は、労働基準法施行規則56条1項1号で、労働者の死亡、退職または解雇の日と定められています。ここが賃金台帳(最後の記入をした日)や出勤簿(完結の日)とは違うところです。
| 起算日 | 例:2026年3月31日退職 | |
|---|---|---|
| 労働者名簿 | 退職・解雇・死亡の日 | 2026年3月31日から数える |
| 賃金台帳 | 最後の記入をした日(賃金の支払期日が遅ければ支払期日) | 4月25日払いなら4月25日から |
在職中は保存期間が始まりません。退職した日から数えるので、10年勤めた人の名簿は、在職の10年に退職後の期間が足されることになります。詳しくは法定帳簿の保存期間にまとめています。
退職者の名簿は、退職した年ごとにまとめておくと処分の判断が楽になります。在職者と同じファイルに置いたままだと、いつから数えるのかが人ごとに分からなくなります。
労働者名簿を他の帳簿とまとめる
労働基準法施行規則55条の2に、年次有給休暇管理簿・労働者名簿・賃金台帳はあわせて調製することができるという定めがあります。3つを別々のファイルで持たなければならない、という決まりではありません。
一般には、労働者名簿は1人1行の一覧表、賃金台帳は1人1シート、有給管理簿はまた別のファイル、という持ち方をしている事業所が多くあります。分けておくほうが人数が多いときは扱いやすい形です。
ただし、人が増えたり辞めたりするときに触る場所が3か所になるという弱点があります。入社のときは3つとも作り、退職のときは3つとも締める必要があるので、どれか1つが抜けます。
| 持ち方 | 向いている場面 | 弱いところ |
|---|---|---|
| 3つを別ファイル | 人数が多く担当者が分かれている | 入退社のときに更新漏れが出る |
| 人ごとに1シート | 人数が少なく1人で見ている | 人数が増えるとシートが増えすぎる |
20人くらいまでなら、人ごとに1シートにまとめるほうが漏れません。1枚のシートの上半分に労働者名簿の9項目、下半分に有給の付与と取得を置き、賃金台帳だけ別シートにする形が扱いやすいです。賃金台帳は毎月行が増えるため、同じシートに置くと縦に伸びすぎます。
まとめるときに気をつけたいのが、保存期間の起算日が帳簿ごとに違うまま1枚に載ることです。1枚になると、いちばん長く残すものに合わせて持つことになります。短いほうに合わせて捨てるよりは安全側なので、実務上は問題になりにくい形です。
労働者名簿と個人情報の扱い
労働者名簿には、氏名・生年月日・住所・履歴という、そのまま個人情報になる項目が並びます。作成と保存が法律で義務づけられている書類なので持つこと自体に問題はありませんが、置き方には気をつけるところがあります。
- 事業場ごとに、見る必要のある人だけが見られる場所に置く
- 紙なら施錠できる場所、データならアクセス権を絞る
- 退職者の分も保存期間のあいだは同じ扱いで残す
- 保存期間が過ぎたら、読めない形にして処分する
「個人情報だから早く消す」はできません。保存期間が定められている書類なので、期間中は本人から削除を求められても残すことになります。逆に、期間が過ぎたものをそのまま置き続ける必要もありません。
一般には、退職者の書類を「念のため」ずっと持っている事業所が多くあります。処分する年をファイル名か封筒に書いておくと、判断のたびに条文を見直さずに済みます。
よくある質問
労働者名簿はエクセルで作ってよいですか
構わないとされています。紙でなければならないという定めはありません。求められたときにその事業場ですぐ出せることが条件になります。事業場が複数あるなら、それぞれの事業場から見られるようにしておきます。
履歴を書かないとどうなりますか
履歴は記載事項の1つなので、空欄のままだと記載事項を満たしていない状態になります。範囲の定めが無いことと、書かなくてよいことは別です。社内の異動歴だけでも記載しておくのが安全な形です。
労働者名簿と従業員名簿は違うものですか
呼び方が違うだけで、労働基準法107条の労働者名簿を指していることがほとんどです。ただし、業法に基づく「従業者名簿」は別の書類です。記載事項も保存期間も違うので、どちらの話かを確かめてください。
新卒で職歴が無い場合、履歴欄はどう書きますか
最終学歴を1行書いて、入社後は配属と異動を足していく形が一般的です。入社時点で書けることが少なくても、空欄のままにしないのがポイントです。
退職者の名簿は削除してよいですか
保存期間が過ぎるまでは残します。起算日は退職・解雇・死亡の日で、5年(当分の間3年)とされています。個人情報だから早く消したい、という理由で期間前に消すことはできません。
外国人を雇ったときに足すものはありますか
労働者名簿の記載事項は日本人と同じ9つです。ただし、在留カードの番号や在留資格・在留期間は、別に管理が必要になる項目です。労働者名簿に欄を足して一緒に持っておくと、在留期間の更新を見落としにくくなります。外国人雇用状況の届出はハローワークへの手続きで、労働者名簿とは別の話になります。
出向している人は、どちらの会社が作りますか
在籍出向か転籍かで扱いが変わります。一般には、労働契約が残っているほうの会社が労働者名簿を作るとされていますが、指揮命令の関係によっては両方で必要になることがあります。出向元と出向先のどちらが何を持つかは、出向契約で決めたうえで、所轄の労働基準監督署に確認するのが確実です。
雇入れの年月日は、内定日と入社日のどちらですか
実際に労働契約が始まった日、つまり入社日を書くのが一般的です。内定日は労働契約の成立時期の話で、雇入れの日とは別に扱われます。試用期間がある場合も、試用期間の開始日が雇入れの日になります。
まとめ
労働者名簿の記載事項は9つです。氏名・生年月日・履歴が労働基準法107条、性別・住所・従事する業務の種類・雇入の年月日・退職の年月日と事由・死亡の年月日と原因が施行規則53条に定められています。常時30人未満の事業では、従事する業務の種類だけ省けるとされています。
履歴欄には範囲の定めがありません。社内の異動歴を日付つきで1行ずつ足していく形にしておけば、記載事項を満たしつつ更新も続きます。
そして、労働者名簿は作って終わりではありません。住所・氏名・履歴が変わったら訂正するものとされていて、いちばん抜けるのは住所です。住所変更の届出を受けたときに更新する先を一覧にしておくと漏れません。
保存期間は5年(当分の間3年)で、起算日は退職・解雇・死亡の日です。在職中は期間が始まらないため、退職した年ごとにまとめておくと処分の判断が楽になります。
記載事項は改正が入ることがあります。自社の様式で足りているかは、所轄の労働基準監督署に確認してください。