1年単位の変形労働時間制|協定と労働日数の上限
目次
忙しい時期と暇な時期の差が大きい。忙しい月は毎日残業、暇な月は早く帰る。この形を制度として認めてもらえるらしい、と聞いて調べ始めたものの、労使協定やカレンダーの話が出てきて手が止まる。
この記事では、1年単位の変形労働時間制を、何ができる制度か・決めること・上限の3つに分けて整理します。読み終えたときに、自社で使えるかどうかを判断できる状態を目指します。
結論:1年を平均して週40時間に収める制度
1年単位の変形労働時間制とは、1か月を超え1年以内の期間を平均して、1週あたりの労働時間が40時間以内になるように定める制度のことです。労働基準法にもとづくものです。
この制度を取ると、特定の週に40時間を、特定の日に8時間を超えて働かせても、時間外労働にならない形になります。忙しい時期に長く、暇な時期に短くする働き方を、割増賃金なしで組めます。
ポイントはここです。あらかじめ決めておくことが前提です。忙しくなってから「今月は変形で」という使い方はできません。期間の初めに、どの日に何時間働くかを決めます。
決めた日に決めた時間を超えて働かせれば、その分は時間外労働になります。制度を取れば残業代が要らなくなる、という話ではありません。
決めておくこと
労使協定で定める事項が決まっています。
対象になる労働者の範囲。対象期間(1か月を超え1年以内)。特定期間(特に忙しい期間を定める場合)。労働日と労働日ごとの労働時間。協定の有効期間。
労働日と労働時間は、対象期間の全部について、期間の初めまでに決めます。1年を対象にするなら、1年分のカレンダーを作ることになります。
対象期間を1か月ごとの区分に分ける方法も認められています。その場合、最初の期間だけ労働日と労働時間を決め、残りは各期間の初日の30日前までに決める形になります。年の後半の予定が立たない会社はこちらを使います。
協定は届出が必要です。所轄の労働基準監督署へ提出します。就業規則にも定めを置きます。
上限がいくつもある
自由に組めるわけではなく、上限が定められています。覚えるのは4つです。
1日の上限は10時間。1週の上限は52時間。これを超える日や週は作れません。
対象期間の労働日数の上限は、1年あたり280日とされています(対象期間が3か月を超える場合)。
連続して働かせる日数の上限は6日。特定期間を定めた場合は、1週間に1日の休日が確保できる範囲まで延ばせます。
さらに、週48時間を超える週の連続や回数にも制限があります。対象期間が3か月を超える場合、48時間を超える週を3週を超えて連続させないこと、対象期間を3か月ごとに区切った各期間で48時間を超える週が3回以下であることとされています。
組んでみると、思ったより自由度が低いというのが実感になります。カレンダーを作る段階で、この上限に当たるかを確かめます。
向く会社と向かない会社
制度が合うかどうかは、繁閑の形で決まります。
向くのは、繁閑が予測できる会社です。製造業の生産の波、季節商材、年度末に集中する業務。1年前から、いつが忙しいか分かることが前提になります。
向かないのは、急な受注で動く会社です。カレンダーを決めても、そのとおりに動けません。決めた日を変えることは原則できないため、結局は時間外労働が積み上がります。
年少者には原則として適用できません。18歳未満の人がいる事業場では、その人だけ別の扱いになります。妊産婦から請求があった場合も、変形労働時間制による労働をさせられないとされています。
育児や介護を行う人などについては、配慮が求められています。制度を取る前に、対象にする範囲を決めておきます。
カレンダーの作り方
実務でいちばん時間がかかるのが、年間カレンダーです。手順は4つです。
1つ目は、休日の日数を決めることです。年間の総労働時間の上限から逆算します。1日8時間なら、年間の労働日数はおおむね260日前後になります。
2つ目は、繁閑の山谷を置くことです。忙しい月に労働日と時間を厚く、暇な月に薄く置きます。
3つ目は、上限に当たっていないかを確かめることです。1日10時間、1週52時間、連続6日、週48時間超の連続と回数。
4つ目は、意見を聴いて協定にすることです。過半数代表者の意見を聴き、協定を結んで届け出ます。
作ったカレンダーは、全員に配ります。いつが休みでいつが長いのかが分かっていないと、生活の予定が立てられません。周知が不十分だと、制度そのものが認められないことがあります。
途中で人が入れ替わったとき
対象期間の途中で入社した人、途中で退職した人には、精算の仕組みがあります。
実際に働いた期間を平均して週40時間を超えていた場合、その超えた分について割増賃金を支払うこととされています。
忙しい時期だけ在籍して辞めた人は、この精算の対象になります。長く働いた分がそのままになることを避けるための仕組みです。
給与の担当が知らないと、この精算が漏れます。入退社の手続きの中に「変形の精算」を1行入れておくと抜けません。
実際に運用するときの負担
制度を取ると、日々の管理が増えます。何が増えるかを見込んでから決めます。
1つ目は、カレンダーどおりに動いているかの確認です。決めた日に決めた時間働いているか。ずれた日は時間外労働になります。
2つ目は、時間外労働の計算です。普段と数え方が違います。1日について定めた時間を超えた分、1週について定めた時間を超えた分、対象期間の総枠を超えた分の順に見ます。給与の担当が計算の根拠を持っている必要があります。
3つ目は、途中入退社の精算です。忙しい時期だけ在籍した人には、精算が要ります。
4つ目は、年少者や妊産婦の扱いです。適用できない人がいるので、その人だけ別の計算になります。
この4つを回せるかどうかで、制度を取るかが決まります。繁閑の差が大きいというだけで取ると、管理の負担のほうが大きくなることがあります。
協定の様式と届出
協定には、定められた様式があります。所轄の労働基準監督署へ届け出ます。
届け出るのは、労使協定と、労働日と労働日ごとの労働時間を定めたもの(カレンダー)です。対象期間を1か月ごとに区分する方法を取る場合は、最初の期間のカレンダーを添える形になります。
届出の期限は、対象期間の開始前です。始まってから出す形では間に合いません。カレンダーを作るのに時間がかかるため、開始の2か月前には動き始めます。
就業規則にも定めを置きます。協定を結んだだけでは足りず、就業規則の根拠が要ります。10人未満で就業規則が無い事業場では、これに代わる定めをどう置くかを確かめます。
協定の有効期間が終わったら、結び直して届け出ます。自動で続く仕組みではありません。
まとめ
1年単位の変形労働時間制は、1か月を超え1年以内の期間を平均して、1週40時間以内に収める制度です。忙しい時期に長く、暇な時期に短く組めます。
前提は、あらかじめ決めておくことです。労使協定で、対象者の範囲、対象期間、労働日と労働日ごとの労働時間、有効期間を定め、届け出ます。就業規則にも定めを置きます。
上限は、1日10時間、1週52時間、年280日、連続6日。週48時間を超える週の連続と回数にも制限があります。組んでみると自由度は高くありません。
向くのは繁閑が予測できる会社です。急な受注で動く会社では、カレンダーどおりに動けず時間外が積み上がります。年少者には原則として適用できません。自社で使えるかは、所轄の労働基準監督署か社会保険労務士に確かめるのが確実です。
よくある質問
Q. 途中でカレンダーを変えられますか。 A. 労働日と労働時間は期間の初めに特定するものなので、後から変えることは原則できません。やむを得ず変える場合の扱いは限られるため、変えられない前提で組むことになります。
Q. 1か月単位の変形労働時間制とは何が違いますか。 A. 対象期間の長さが違います。1か月単位は1か月以内で、上限の定めも異なります。届出や協定の要否も違うため、どちらを取るかは繁閑の周期で決めます。
Q. 変形労働時間制でも36協定は要りますか。 A. 要ります。決めた労働時間を超えて働かせるなら、時間外労働です。変形の協定と36協定は別のものなので、両方を結んで届け出ます。
Q. 時間外労働はどう数えますか。 A. 1日について定めた時間を超えた分、1週について定めた時間を超えた分、対象期間の総枠を超えた分の順に数えます。普段の数え方と違うので、給与の計算の根拠を書き残しておきます。
Q. 年間280日の上限は、必ずかかりますか。 A. 対象期間が3か月を超える場合の上限とされています。対象期間が3か月以内なら、この上限はかかりません。自社の対象期間の長さで変わります。
Q. 特定期間とは何ですか。 A. 対象期間の中で特に業務が忙しい期間として定めるものです。定めると、連続して働かせる日数の上限を、1週間に1日の休日が確保できる範囲まで延ばせます。定めるなら協定に書きます。
Q. 休日出勤をさせた場合はどうなりますか。 A. カレンダーで休日と定めた日に働かせれば、休日労働または時間外労働になります。変形にしたからといって、休日に働かせても割増が要らなくなるわけではありません。
Q. 制度を止めたいときはどうしますか。 A. 協定の有効期間が終われば、更新しないことで止められます。期間の途中で止める場合は、労働条件の変更にあたるため、手続きを確かめます。止めた後の労働時間の扱いも決めておきます。
Q. 1週間単位の変形労働時間制もありますか。 A. 日ごとの業務の繁閑が大きい一定の事業で、規模の要件を満たす場合に取れる制度があります。対象になる業種が限られているため、自社が該当するかを確かめます。
Q. フレックスタイム制とは何が違いますか。 A. フレックスは、働く時間帯を労働者が決める制度です。変形労働時間制は、会社があらかじめ決めた日ごとの時間で働く制度です。誰が時間を決めるかが違います。
Q. カレンダーを作るのに、どれくらい時間がかかりますか。 A. 初めて作る場合、休日の日数の計算と上限の確認で数日かかります。2年目以降は前年のものを土台にできるため、短くなります。開始の2か月前を目安に動き始めます。
Q. 協定の届出を忘れていた場合、制度は無効になりますか。 A. 届出が要件とされているため、出していない状態では制度が認められない可能性があります。気づいた時点で届け出て、それまでの期間の労働時間の扱いを確かめます。さかのぼって有効にはなりません。
Q. 年間カレンダーを社員に配る時期は。 A. 対象期間が始まる前です。休日がいつになるかが分からないと、生活の予定が立てられません。届出と同じ時期に配る形にしておくと、抜けません。
Q. 変形労働時間制を取っていても、有給休暇の付与日数は変わりますか。 A. 週の所定労働日数で決まる考え方は同じです。日ごとの労働時間が変わっても、付与日数の表の見方は変わりません。所定労働日数が年によって変わる場合の扱いは確かめます。
Q. 休日の日数は、年に何日必要ですか。 A. 1年間の総労働時間の上限から逆算します。1日8時間で組むなら、労働日数はおおむね260日前後になります。1日の時間を長くすれば労働日数は減り、短くすれば増えます。カレンダーを組むときの出発点になります。
Q. 途中で休職した人の扱いはどうなりますか。 A. 休職の期間は労働の義務が無いため、その期間を除いて考えることになります。復職後にどのカレンダーを適用するかを決めておきます。扱いが分かれる場面なので、就業規則に書いておくと迷いません。