勤怠と労務解説2026.06.25 公開KK-45

1年単位の変形労働時間制|協定と労働日数の上限

目次

忙しい時期と暇な時期の差が大きい。忙しい月は毎日残業、暇な月は早く帰る。この形を制度として認めてもらえるらしい、と聞いて調べ始めたものの、労使協定やカレンダーの話が出てきて手が止まる。

この記事では、1年単位の変形労働時間制を、何ができる制度か・決めること・上限の3つに分けて整理します。読み終えたときに、自社で使えるかどうかを判断できる状態を目指します。

36協定のほうから確かめたい方は、こちらを読むと早いです。→ 36協定とは

結論:1年を平均して週40時間に収める制度

1年単位の変形労働時間制とは、1か月を超え1年以内の期間を平均して、1週あたりの労働時間が40時間以内になるように定める制度のことです。労働基準法にもとづくものです。

この制度を取ると、特定の週に40時間を、特定の日に8時間を超えて働かせても、時間外労働にならない形になります。忙しい時期に長く、暇な時期に短くする働き方を、割増賃金なしで組めます。

ポイントはここです。あらかじめ決めておくことが前提です。忙しくなってから「今月は変形で」という使い方はできません。期間の初めに、どの日に何時間働くかを決めます。

平常と変形平常の形毎週40時間超えたら時間外繁閑に合わせられない変形の形忙しい週は長く暇な週は短く平均して週40時間あらかじめ決めておく
平常の週40時間と、変形して繁閑に合わせる形を並べた比較の図

決めた日に決めた時間を超えて働かせれば、その分は時間外労働になります。制度を取れば残業代が要らなくなる、という話ではありません。

決めておくこと

労使協定で定める事項が決まっています。

対象になる労働者の範囲。対象期間(1か月を超え1年以内)。特定期間(特に忙しい期間を定める場合)。労働日と労働日ごとの労働時間。協定の有効期間。

協定で定める5つ定めること内容対象の労働者範囲を決める対象期間1か月超1年以内特定期間特に忙しい期間を定める場合労働日と時間期間の初めまでに決める
協定で定める5つの事項を並べた表

労働日と労働時間は、対象期間の全部について、期間の初めまでに決めます。1年を対象にするなら、1年分のカレンダーを作ることになります。

対象期間を1か月ごとの区分に分ける方法も認められています。その場合、最初の期間だけ労働日と労働時間を決め、残りは各期間の初日の30日前までに決める形になります。年の後半の予定が立たない会社はこちらを使います。

協定は届出が必要です。所轄の労働基準監督署へ提出します。就業規則にも定めを置きます。

上限がいくつもある

自由に組めるわけではなく、上限が定められています。覚えるのは4つです。

1日の上限は10時間。1週の上限は52時間。これを超える日や週は作れません。

対象期間の労働日数の上限は、1年あたり280日とされています(対象期間が3か月を超える場合)。

連続して働かせる日数の上限は6日。特定期間を定めた場合は、1週間に1日の休日が確保できる範囲まで延ばせます。

4つの上限上限数字1日10時間1週52時間年の労働日数280日(3か月超の場合)連続する労働日6日
1日10時間・1週52時間・年280日・連続6日という4つの上限を並べた表

さらに、週48時間を超える週の連続や回数にも制限があります。対象期間が3か月を超える場合、48時間を超える週を3週を超えて連続させないこと、対象期間を3か月ごとに区切った各期間で48時間を超える週が3回以下であることとされています。

組んでみると、思ったより自由度が低いというのが実感になります。カレンダーを作る段階で、この上限に当たるかを確かめます。

向く会社と向かない会社

制度が合うかどうかは、繁閑の形で決まります。

向くのは、繁閑が予測できる会社です。製造業の生産の波、季節商材、年度末に集中する業務。1年前から、いつが忙しいか分かることが前提になります。

向かないのは、急な受注で動く会社です。カレンダーを決めても、そのとおりに動けません。決めた日を変えることは原則できないため、結局は時間外労働が積み上がります。

合う会社と合わない会社合う繁閑が1年前から読める生産の波が決まっているカレンダーどおりに動ける合わない急な受注で動く予定が変わりやすい結局は時間外が積み上がる
繁閑が読める会社と読めない会社で、制度の合い方が違うことを並べた比較の図
点検表テンプレート
様式をさがす

実際に使える様式が必要な方へ

拘束時間や労働時間の管理に使えるExcelの様式が、点検板のテンプレートのページにあります。この記事は制度の側の話です。

この様式をひらく

年少者には原則として適用できません。18歳未満の人がいる事業場では、その人だけ別の扱いになります。妊産婦から請求があった場合も、変形労働時間制による労働をさせられないとされています。

育児や介護を行う人などについては、配慮が求められています。制度を取る前に、対象にする範囲を決めておきます。

カレンダーの作り方

実務でいちばん時間がかかるのが、年間カレンダーです。手順は4つです。

1つ目は、休日の日数を決めることです。年間の総労働時間の上限から逆算します。1日8時間なら、年間の労働日数はおおむね260日前後になります。

2つ目は、繁閑の山谷を置くことです。忙しい月に労働日と時間を厚く、暇な月に薄く置きます。

3つ目は、上限に当たっていないかを確かめることです。1日10時間、1週52時間、連続6日、週48時間超の連続と回数。

4つ目は、意見を聴いて協定にすることです。過半数代表者の意見を聴き、協定を結んで届け出ます。

カレンダーを作る4つ1休日の日数総労働時間から逆算2山谷を置く忙しい月を厚く3上限を確かめる4つの数字と週48時間4協定にする意見を聴いて届け出る
年間カレンダーを作る4つの手順を並べたフロー

作ったカレンダーは、全員に配ります。いつが休みでいつが長いのかが分かっていないと、生活の予定が立てられません。周知が不十分だと、制度そのものが認められないことがあります。

途中で人が入れ替わったとき

対象期間の途中で入社した人、途中で退職した人には、精算の仕組みがあります。

実際に働いた期間を平均して週40時間を超えていた場合、その超えた分について割増賃金を支払うこととされています。

途中入退社は精算する忙しい時期だけ在籍働いた期間平均して週40時間を超えていれば、その分の割増賃金が要る
期間の途中で入退社した人の精算の考え方を示した図

忙しい時期だけ在籍して辞めた人は、この精算の対象になります。長く働いた分がそのままになることを避けるための仕組みです。

給与の担当が知らないと、この精算が漏れます。入退社の手続きの中に「変形の精算」を1行入れておくと抜けません。

実際に運用するときの負担

制度を取ると、日々の管理が増えます。何が増えるかを見込んでから決めます。

1つ目は、カレンダーどおりに動いているかの確認です。決めた日に決めた時間働いているか。ずれた日は時間外労働になります。

2つ目は、時間外労働の計算です。普段と数え方が違います。1日について定めた時間を超えた分、1週について定めた時間を超えた分、対象期間の総枠を超えた分の順に見ます。給与の担当が計算の根拠を持っている必要があります。

3つ目は、途中入退社の精算です。忙しい時期だけ在籍した人には、精算が要ります。

4つ目は、年少者や妊産婦の扱いです。適用できない人がいるので、その人だけ別の計算になります。

この4つを回せるかどうかで、制度を取るかが決まります。繁閑の差が大きいというだけで取ると、管理の負担のほうが大きくなることがあります。

協定の様式と届出

協定には、定められた様式があります。所轄の労働基準監督署へ届け出ます。

届け出るのは、労使協定と、労働日と労働日ごとの労働時間を定めたもの(カレンダー)です。対象期間を1か月ごとに区分する方法を取る場合は、最初の期間のカレンダーを添える形になります。

届出の期限は、対象期間の開始前です。始まってから出す形では間に合いません。カレンダーを作るのに時間がかかるため、開始の2か月前には動き始めます。

就業規則にも定めを置きます。協定を結んだだけでは足りず、就業規則の根拠が要ります。10人未満で就業規則が無い事業場では、これに代わる定めをどう置くかを確かめます。

協定の有効期間が終わったら、結び直して届け出ます。自動で続く仕組みではありません。

まとめ

1年単位の変形労働時間制は、1か月を超え1年以内の期間を平均して、1週40時間以内に収める制度です。忙しい時期に長く、暇な時期に短く組めます。

前提は、あらかじめ決めておくことです。労使協定で、対象者の範囲、対象期間、労働日と労働日ごとの労働時間、有効期間を定め、届け出ます。就業規則にも定めを置きます。

上限は、1日10時間、1週52時間、年280日、連続6日。週48時間を超える週の連続と回数にも制限があります。組んでみると自由度は高くありません。

向くのは繁閑が予測できる会社です。急な受注で動く会社では、カレンダーどおりに動けず時間外が積み上がります。年少者には原則として適用できません。自社で使えるかは、所轄の労働基準監督署か社会保険労務士に確かめるのが確実です。

点検表テンプレート
様式をさがす

実際に使える様式が必要な方へ

労働時間の管理に使えるExcelの様式が、点検板のテンプレートのページにあります。変形のカレンダーと実績を突き合わせる形で使えます。

この様式をひらく

よくある質問

Q. 途中でカレンダーを変えられますか。 A. 労働日と労働時間は期間の初めに特定するものなので、後から変えることは原則できません。やむを得ず変える場合の扱いは限られるため、変えられない前提で組むことになります。

Q. 1か月単位の変形労働時間制とは何が違いますか。 A. 対象期間の長さが違います。1か月単位は1か月以内で、上限の定めも異なります。届出や協定の要否も違うため、どちらを取るかは繁閑の周期で決めます。

Q. 変形労働時間制でも36協定は要りますか。 A. 要ります。決めた労働時間を超えて働かせるなら、時間外労働です。変形の協定と36協定は別のものなので、両方を結んで届け出ます。

Q. 時間外労働はどう数えますか。 A. 1日について定めた時間を超えた分、1週について定めた時間を超えた分、対象期間の総枠を超えた分の順に数えます。普段の数え方と違うので、給与の計算の根拠を書き残しておきます。

Q. 年間280日の上限は、必ずかかりますか。 A. 対象期間が3か月を超える場合の上限とされています。対象期間が3か月以内なら、この上限はかかりません。自社の対象期間の長さで変わります。

Q. 特定期間とは何ですか。 A. 対象期間の中で特に業務が忙しい期間として定めるものです。定めると、連続して働かせる日数の上限を、1週間に1日の休日が確保できる範囲まで延ばせます。定めるなら協定に書きます。

Q. 休日出勤をさせた場合はどうなりますか。 A. カレンダーで休日と定めた日に働かせれば、休日労働または時間外労働になります。変形にしたからといって、休日に働かせても割増が要らなくなるわけではありません。

Q. 制度を止めたいときはどうしますか。 A. 協定の有効期間が終われば、更新しないことで止められます。期間の途中で止める場合は、労働条件の変更にあたるため、手続きを確かめます。止めた後の労働時間の扱いも決めておきます。

Q. 1週間単位の変形労働時間制もありますか。 A. 日ごとの業務の繁閑が大きい一定の事業で、規模の要件を満たす場合に取れる制度があります。対象になる業種が限られているため、自社が該当するかを確かめます。

Q. フレックスタイム制とは何が違いますか。 A. フレックスは、働く時間帯を労働者が決める制度です。変形労働時間制は、会社があらかじめ決めた日ごとの時間で働く制度です。誰が時間を決めるかが違います。

Q. カレンダーを作るのに、どれくらい時間がかかりますか。 A. 初めて作る場合、休日の日数の計算と上限の確認で数日かかります。2年目以降は前年のものを土台にできるため、短くなります。開始の2か月前を目安に動き始めます。

Q. 協定の届出を忘れていた場合、制度は無効になりますか。 A. 届出が要件とされているため、出していない状態では制度が認められない可能性があります。気づいた時点で届け出て、それまでの期間の労働時間の扱いを確かめます。さかのぼって有効にはなりません。

Q. 年間カレンダーを社員に配る時期は。 A. 対象期間が始まる前です。休日がいつになるかが分からないと、生活の予定が立てられません。届出と同じ時期に配る形にしておくと、抜けません。

Q. 変形労働時間制を取っていても、有給休暇の付与日数は変わりますか。 A. 週の所定労働日数で決まる考え方は同じです。日ごとの労働時間が変わっても、付与日数の表の見方は変わりません。所定労働日数が年によって変わる場合の扱いは確かめます。

Q. 休日の日数は、年に何日必要ですか。 A. 1年間の総労働時間の上限から逆算します。1日8時間で組むなら、労働日数はおおむね260日前後になります。1日の時間を長くすれば労働日数は減り、短くすれば増えます。カレンダーを組むときの出発点になります。

Q. 途中で休職した人の扱いはどうなりますか。 A. 休職の期間は労働の義務が無いため、その期間を除いて考えることになります。復職後にどのカレンダーを適用するかを決めておきます。扱いが分かれる場面なので、就業規則に書いておくと迷いません。