労働時間の把握とは?客観的な記録と3つの方法
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労働時間の把握は、残業代を計算するためのものだと思われがちですが、根拠になっている条文は2つあり、目的も対象になる人も違います。片方は労働基準法、もう片方は労働安全衛生法です。この2つを1つのものとして扱っていると、管理監督者の記録だけがすっぽり抜けます。
この記事では、労働時間の把握を、2つの根拠、客観的な記録とは何か、自己申告を採るときの条件、対象になる人、記録の保存の順に整理します。運用は通達とガイドラインで定められています。自社の扱いは所轄の労働基準監督署に確認してください。
結論:根拠が2つあり、対象者が違う
労働時間の把握には、性格の違う2つの義務があるとされています。
| 労働基準法の側 | 労働安全衛生法の側 | |
|---|---|---|
| 何のため | 割増賃金を正しく払うため | 健康を守り、面接指導につなげるため |
| 根拠 | 労基法108条・109条、ガイドライン | 安衛法66条の8の3、安衛則52条の7の3 |
| 呼び方 | 労働時間の適正な把握 | 労働時間の状況の把握 |
| 管理監督者 | 賃金台帳の時間欄は記入不要とされる | 対象に含まれる |
| 記録の保存 | 5年(当分の間3年) | 3年 |
いちばん効いてくるのは、管理監督者の扱いです。労働基準法施行規則54条5項で、管理監督者については賃金台帳の労働時間数の欄を記入することを要しないとされています。ここだけを見て「管理職の勤怠は記録しなくてよい」と運用すると、労働安全衛生法の側の義務が果たせていない状態になります。
労働安全衛生法66条の8の3では、高度プロフェッショナル制度の対象者を除くすべての労働者について、労働時間の状況を把握することが求められているとされています。管理監督者も、裁量労働制の対象者も、事業場外みなし労働時間制の対象者も含まれます。
呼び方が違うので、社内でそろえる
「労働時間の把握」と「労働時間の状況の把握」は、法令上は別の言葉です。ただ、実務で2つの記録を別々に取ることはほとんどありません。同じ勤怠の記録が、両方の目的に使われる形になります。
社内の規程や手順書を書くときは、どちらの話をしているかを1回だけ書いておくと、後から読む人が混乱しません。
客観的な記録とは何か
厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、始業・終業時刻の確認と記録の原則的な方法として、次の2つが挙げられているとされています。
- 使用者が、自ら現認することにより確認し、記録する
- タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録する
「客観的な記録」というのは、本人の申告以外の方法で残る記録のことです。具体的には次のようなものが挙げられます。
| 種類 | 例 |
|---|---|
| 打刻の記録 | タイムカード、ICカードの入退館、勤怠システムの打刻 |
| 機器の使用記録 | パソコンの起動・終了のログ、業務システムのログイン記録 |
| 入退室の記録 | オフィスのセキュリティゲート、鍵の開閉記録 |
どれか1つで足ります。すべてを取る必要はありません。すでに入退館のカードがある職場なら、その記録を勤怠の裏づけとして使えます。
現認は小さい事業所では成り立つ
1つ目の「使用者が自ら現認する」は、人数が少ない事業所では現実的な方法です。毎日、始業と終業の時刻を見て記録するという形になります。
ただ、現認を採る場合も記録は残します。見ただけで記録が無いと、後から確かめる材料がありません。出勤簿に時刻を書き入れる形にしておけば足ります。
自己申告を採るときの条件
本人の自己申告による把握は、ガイドライン上はやむを得ず客観的な方法によることができない場合の方法という位置づけとされています。禁止されているわけではありませんが、採る場合に講ずべき措置が挙げられています。
一般に、次の4つとされています。
- 自己申告を行う労働者に対して、労働時間の考え方を十分に説明する
- 自己申告された労働時間が実際の労働時間と合っているか、必要に応じて実態調査を行い、補正する
- 記録上の労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由を報告させる場合、報告が適正に行われているかを確認する
- 時間外労働時間数の上限を設けるなど、適正な申告を阻害する措置を設けない
4つ目がいちばん見落とされます。「残業は月20時間まで」という運用にしていると、それを超えた分が申告されなくなります。上限を設けること自体ではなく、上限があるために申告されなくなる状態が問題になります。
突き合わせる日を決めておく
自己申告を続けるなら、2つ目の実態調査をどう回すかが実務の要になります。毎日やる必要はありません。
- 月に1回、申告と客観的な記録(入退館やパソコンのログ)を突き合わせる
- 大きくずれている人がいたら、理由を聞いて記録を直す
- 見たこと自体を、日付とともに残す
「見ている」という記録が残っていることが効いてきます。突き合わせをしていても、記録が無いと、していないのと同じ扱いになります。1行でよいので、いつ誰の分を確認したかを残します。
対象になる人を落とさない
労働時間の状況の把握は、高度プロフェッショナル制度の対象者を除くすべての労働者が対象とされています。ここが労働基準法の側と違うところです。
| 区分 | 賃金台帳の時間欄 | 労働時間の状況の把握 |
|---|---|---|
| 一般の労働者 | 必要 | 必要 |
| 管理監督者 | 規則54条5項で記入不要 | 必要 |
| 裁量労働制の対象者 | みなし時間で扱う | 必要 |
| 事業場外みなし労働時間制 | みなし時間で扱う | 必要 |
| 高度プロフェッショナル制度 | 記入不要 | 対象外(健康管理時間の把握が別にある) |
管理監督者と裁量労働制の人が抜けやすいのは、どちらも「労働時間を管理しない働き方」という理解が広まっているためです。割増賃金の計算はしないとしても、健康を守るための記録は要る、という整理になります。
何のために把握するのか
労働安全衛生法66条の8の3で労働時間の状況の把握が求められているのは、医師の面接指導につなげるためとされています。
一般には、時間外・休日労働が1か月あたり80時間を超え、疲労の蓄積が認められる労働者から申出があった場合に、医師による面接指導を行うこととされています。誰が80時間を超えたかは、時間を把握していないと分かりません。
管理監督者の労働時間が記録されていないと、面接指導の対象かどうかを判定できない状態になります。ここが、記録が要る実務上の理由になります。
在宅勤務や直行直帰の記録
オフィスに来ない働き方では、打刻の記録が取りにくくなります。ただ、把握しなくてよいことにはなりません。
| 働き方 | 記録の取り方の例 |
|---|---|
| 在宅勤務 | 勤怠システムの打刻、パソコンのログ、始業・終業のチャット連絡 |
| 直行直帰 | 携帯からの打刻、業務報告の送信時刻、訪問先の記録 |
| 出張 | 出張報告書の時刻、移動の記録 |
連絡そのものを残しておくと、客観的な記録に近い形になります。始業と終業をチャットで送ってもらう運用なら、そのログが記録になります。口頭の連絡だけにすると、何も残りません。
在宅勤務で中抜けがある場合は、中抜けの時間も記録します。始業と終業だけを取ると、実際には働いていない時間が労働時間に入ります。休憩の欄とは別に、中抜けの欄を置いておくと整理しやすくなります。
事業場外みなし労働時間制を使うとき
外回りの仕事で、労働時間を算定しがたい場合に事業場外みなし労働時間制を使うことがあります。ただ、携帯電話で随時連絡が取れる状態なら「算定しがたい」に当たらないという整理が一般的です。
みなし労働時間制を採っている場合でも、労働時間の状況の把握は必要とされています。みなしの時間と、実際に把握した時間の両方が残る形になります。
記録の保存
労働安全衛生規則52条の7の3で、労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存することが定められているとされています。
一方、同じ勤怠の記録が労働基準法109条の「重要な書類」にも当たるため、そちらでは5年(当分の間3年)です。
| 根拠 | 期間 |
|---|---|
| 安衛則52条の7の3 | 3年 |
| 労基法109条 | 5年(当分の間3年) |
長いほうに合わせて5年で持っておくのが迷わない形です。保存期間の全体像は法定帳簿の保存期間にまとめています。
把握した時間を、次の3つへ渡す
労働時間の把握は、記録を取ること自体が目的ではありません。取った時間が3つの場所へ渡って、はじめて意味が出ます。
| 渡し先 | 渡す数字 | 何のため |
|---|---|---|
| 賃金台帳 | 労働日数、労働時間数、時間外・休日・深夜の時間数 | 割増賃金の根拠 |
| 36協定の管理 | 月ごと・年ごとの時間外労働の累計 | 上限を超えていないかの判定 |
| 面接指導の判定 | 時間外・休日労働が月80時間を超えた人 | 医師の面接指導につなげる |
3つとも、同じ勤怠の集計から出せます。別々に数え直す形にしていると、どこかで数字が食い違います。月次の集計を1回作って、そこから3つへ配る形にするのが手数の少ないやり方です。
月の途中で気づける形にする
36協定の上限も、面接指導の80時間も、月が終わってから数えると手遅れです。超えてしまったあとで分かっても、その月は戻せません。
- 月の中日に、時間外労働の累計を出す
- 上限の半分を超えている人を抜き出す
- 残りの半月の予定を調整する
中日に1回見るだけで、超える前に手が打てます。勤怠システムを使っているなら、この集計は設定で自動化できることが多くあります。36協定の上限については36協定の届出と管理にまとめています。
記録のずれが後から問題になる形
労働時間の記録は、その時点では誰も困らないのに、後から効いてくる書類です。問題になる場面を挙げます。
| 場面 | 記録が無いとどうなるか |
|---|---|
| 未払賃金の請求 | 会社側が実態を示せず、労働者側の主張が前提になることがある |
| 労災の申請 | 長時間労働があったかの判断材料が無くなる |
| 労働基準監督署の調査 | 客観的な記録がないと、把握の方法自体を指摘される |
| 退職者からの問い合わせ | 在職中の時間を確かめられない |
どれも、起きてから記録を作ることはできません。普段の運用で残っている形にしておくことがすべてになります。
一般には、勤怠システムを入れたあとも、打刻漏れの修正が承認なしで通る設定のままになっていることがあります。修正の履歴が残る設定にしておくと、客観性が保てます。誰がいつ直したかが残る形が望ましい形です。
よくある質問
タイムカードが無い職場はどうすればよいですか
タイムカードでなければならない決まりはありません。入退館のカード、パソコンのログ、勤怠システムの打刻のどれかがあれば客観的な記録になります。どれも無い場合は、使用者が現認して出勤簿に時刻を記録する形から始められます。
管理職の勤怠は記録しなくてよいのでは
賃金台帳の労働時間数の欄については、労働基準法施行規則54条5項で管理監督者の記入は不要とされています。ただし労働安全衛生法66条の8の3による労働時間の状況の把握は対象に含まれるとされています。深夜割増は管理監督者にも適用されるとされているので、実務としても記録は残しておくほうが安全です。
残業の上限を決めるのは問題ですか
上限を決めること自体ではなく、上限があるために実際の時間が申告されなくなる状態が問題になるとされています。上限を設けるなら、超えた場合の申告のしかたもあわせて決めておきます。
パソコンのログと申告がずれています
ずれている理由を確かめて、記録を直す流れになります。始業前の私的な利用や、終業後に個人の作業をしている場合もあるため、ずれ=不正申告とは限りません。理由を聞いて、どちらが実態かを判断した記録を残します。
休憩を取れなかった日はどう記録しますか
実際に休憩が取れていないなら、その分は労働時間になります。休憩1時間と決め打ちにせず、取れなかった日はその旨を記録します。出勤簿に休憩の実績欄を置いておくと、決め打ちにならずに済みます。書き方は出勤簿の書き方にまとめています。
勤怠システムを入れれば把握したことになりますか
仕組みを入れただけでは足りません。打刻漏れがそのまま放置されていないか、修正が実態に合っているかを見るところまでが運用になります。導入の初期は、打刻漏れの件数を月に1回見て、多い部署に理由を聞く形にすると定着します。
記録は誰が確認しますか
把握する義務は使用者にあるとされています。実務としては、部署の管理者が月次で確認し、総務や人事がまとめて見る二段構えが一般的です。確認した人と日付が残る形にしておくと、後から説明できます。
まとめ
労働時間の把握には、目的の違う2つの義務があります。労働基準法の側は割増賃金を正しく払うため、労働安全衛生法の側は健康を守り医師の面接指導につなげるためです。
対象になる人が違うのが、いちばん効いてくるところです。管理監督者は賃金台帳の時間欄の記入が不要とされていますが、労働安全衛生法66条の8の3による労働時間の状況の把握は対象に含まれるとされています。
記録の方法は、使用者による現認か、タイムカード・ICカード・パソコンのログといった客観的な記録が原則とされています。自己申告を採る場合は、十分な説明、実態調査と補正、報告の確認、申告を阻害する措置を設けないことの4つが求められます。
在宅勤務や直行直帰でも把握は必要です。始業と終業の連絡そのものを残しておけば、客観的な記録に近い形になります。
記録の保存は、労働安全衛生規則で3年、労働基準法では5年(当分の間3年)とされています。長いほうに合わせるのが迷わない形です。
運用は通達とガイドラインで定められています。自社の扱いは、所轄の労働基準監督署に確認してください。