時間外労働管理表の作り方|上限の前に気づく形
目次
36協定は結んでいる。出勤簿もある。それでも、誰が上限に近づいているのかは月末にならないと分からない。気づいたときには、その月の残業がもう協定の時間を超えている。人数が増えるほど起きやすい形です。
この記事では、時間外労働管理表を、何を並べるか・いつ見るか・超えそうなときの動き方の3つに分けて整理します。読み終えたときに、自社の1枚を作れる状態を目指します。
結論:出勤簿から「残り」を出す表
時間外労働管理表とは、労働者ごとに時間外労働の実績と、上限までの残りを並べた表のことです。法令で作成が義務づけられた書類ではありません。
義務があるのは、労働時間の状況を把握すること、賃金台帳に時間外労働の時間数を記入すること、36協定の範囲内に収めることです。管理表は、それを守るための道具という位置づけになります。
ポイントはここです。出勤簿と賃金台帳だけでは「残り」が見えません。どちらも実績を書く帳簿で、上限までどれだけあるかは出てきません。管理表は、そこを埋めるために作ります。
作る目的は、上限に触れる前に気づくことです。月末に集計して「超えていました」と分かる形では、打つ手がありません。
並べる列
必要な列は多くありません。7つあれば足ります。
氏名。所属。その月の時間外労働の時間数。当月の上限。年度の累計。年度の上限。残り。
このうち、当月の上限と年度の上限は36協定から取ります。協定に書いた時間が自社の上限です。法令の上限より短く書いてあれば、短いほうが効きます。
残りの列は計算で出します。年度の上限から累計を引くだけです。ここを数式にしておくと、更新は当月の時間数を入れるだけで済みます。
休日労働を別に管理する場合は、列を分けます。時間外労働と休日労働は別に数える場面があるため、混ぜると後で分けられなくなります。
出どころは出勤簿
時間数の出どころは、出勤簿か勤怠のシステムです。新しく集計するのではなく、すでにある実績を月ごとに転記します。
転記の作業を減らすには、出勤簿の側で月の合計が出る形にしておきます。日ごとの時間外を足す作業を毎月手でやっていると、人数が増えたときに止まります。
締め日と、管理表を作る日をそろえておきます。給与の締めが20日なら、管理表も20日締めにします。暦月と給与の締めが違う会社では、36協定の起算をどちらで見るかを決めておきます。
システムを使っている会社でも、管理表は別に持っておくと使えます。システムの画面は実績を見るためのもので、残りを人ごとに並べ替えて見る用途には向かないことが多いためです。
いつ見るか
月末に見ると手遅れです。効くのは、月の途中で1回見ることです。
15日の時点で、その月の時間外が上限の半分を超えている人がいれば、後半で調整できます。月末に超えていることが分かっても、その月はもう終わっています。
年度の累計は、月に1回見ます。年度の残りを、残りの月数で割った数字を出しておくと、その月に使える時間の目安が出ます。年の後半に入る前に見えるのが要点です。
見る人も決めておきます。総務が出した数字を、誰が受け取って配置を変えるのか。出すだけで誰も動かない表になりがちなところです。
超えそうなときに何ができるか
近づいている人が見えたら、打てる手は3つです。
1つ目は、仕事を振り替えることです。その人に集まっている作業を、他の人に回します。いちばん直接的ですが、その作業ができる人がいるかどうかで決まります。
2つ目は、締め切りをずらすことです。急ぐ必要が本当にあるのかを確かめます。動かせる仕事が混ざっていることがあります。
3つ目は、人を増やすことです。時間がかかるので、早く気づいたときにだけ取れる手になります。
どれも、上限に触れる何か月も前に気づいていないと取れません。管理表の値打ちは、この時間を作るところにあります。
特別条項がある場合
36協定に特別条項を入れている場合、管理表の列が増えます。
見るのは、特別条項を使った月が何回目かです。年6か月までという制限があるため、回数を数える列が要ります。
あわせて、単月100時間未満と複数月平均80時間以内の条件も見ることになります。自動車運転の業務など、適用が異なるものもあります。
特別条項を使うときは、協定で定めた手続きを取ります。労働者代表への通告など、決めた手順を踏んだ記録を残します。時間だけ管理して手続きを忘れるのが、よくある抜けです。
月80時間を超えた人への対応
時間外労働が一定の時間を超えた労働者について、医師の面接指導を行うことが求められています。管理表は、その対象になる人を見つける道具にもなります。
面接指導の対象になる線は、時間外労働と休日労働の合計が1か月あたり80時間を超え、疲労の蓄積が認められる場合とされています。本人の申出があったときに行う形が基本です。
会社の側は、超えた労働者本人にその時間数を知らせることが求められています。管理表があれば、誰に知らせる必要があるかがその場で分かります。
知らせた記録と、申出の有無、面接指導を行ったかどうかを残します。申出が無かった場合も、知らせた記録は残しておくと、対応していたことを示せます。
表を配る形にすると動く
総務が持っているだけの表は、総務の中で止まります。部署ごとに切って配ると、現場の側が動き始めます。
配るのは、その部署の人だけが載った1枚です。全社の表を配ると、他部署の残業時間まで見えてしまいます。
配る頻度は月1回で足ります。残りの列だけを見てもらえばよいので、説明は1行で済みます。「残りが20時間を切っている人がいます」と書き添えるだけで、配置の相談が始まります。
部署ごとの合計も出しておくと、特定の部署に偏っていることが見えます。1人の問題ではなく人数の問題であるケースが、ここで分かります。
数字を配置に変える
表を作る目的は、数字を出すことではなく配置を変えることです。数字から動きに変えるには、線を決めておきます。
決めるのは2つです。声をかける線と、配置を変える線です。
声をかける線は、年度の残りを残りの月数で割った数字の8割を超えたあたりに置きます。まだ余裕はあるが、このまま進むと届かないという段階です。
配置を変える線は、残りが2か月分を切ったあたりです。ここまで来たら、その人の仕事を減らす形に動きます。
線を決めておくと、毎月の判断が要りません。表を開いて、線を超えている人がいるかを見るだけになります。判断を毎回やり直すと、忙しい月に飛びます。
出勤簿との突き合わせ
管理表の数字は、出勤簿から取ります。ずれていると、どちらかが間違っています。
ずれやすいのは3つです。締め日の違い、休憩時間の扱い、法定休日と所定休日の区別。
締め日が違うと、月をまたいだ分がずれます。給与の締めと管理表の締めをそろえておきます。
休憩時間を引いていないと、労働時間が多く出ます。出勤簿の合計が拘束時間になっている場合、そこから引く必要があります。
法定休日と所定休日を分けていないと、休日労働と時間外労働の区別が付きません。就業規則でどの曜日が法定休日かを決めておくことが前提になります。
年に1回、この3つを確かめると、数字の信頼性が上がります。管理表の数字が信用できないと、誰も動きません。
1年を通した使い方
管理表は、年の流れの中で見るものが変わります。
年度の初めは、上限の設定です。36協定を結び直したら、その数字を管理表に入れます。前年の数字が残ったままだと、ずれた線で判断することになります。
年の前半は、月ごとの実績の把握です。まだ余裕があるので、偏りを見ます。特定の人や部署に集まっていないかを確かめます。
年の後半は、残りの管理です。残りを残りの月数で割った数字が、その月に使える目安になります。ここから、配置を変える判断が出てきます。
年度の終わりは、振り返りです。上限に近づいた人がいたか、その原因は何だったか。翌年の協定の内容や、人の配置に反映します。
この流れを決めておくと、毎月何をすればよいかが分かります。表を作ることより、見る習慣を作るほうが難しいので、時期ごとの役割をはっきりさせておきます。
まとめ
時間外労働管理表は、労働者ごとに実績と上限までの残りを並べた表です。法令で義務づけられた書類ではありませんが、36協定の範囲に収めるための道具になります。
列は7つで足ります。氏名、所属、当月の時間数、当月の上限、年度の累計、年度の上限、残り。上限は36協定に書いた時間から取ります。
出どころは出勤簿です。新しく集計せず、実績を転記します。月の途中で1回見るのが要点で、月末では打つ手がありません。
近づいている人が見えたら、仕事の振り替え、締め切りの調整、増員の順に手を打ちます。特別条項がある場合は、使った回数の列を足します。自社の協定の内容は、控えで確かめるのが確実です。
実際に使える様式が必要な方へ
拘束時間や時間外を月ごとに集計できるExcelの様式が、点検板のテンプレートのページにあります。残りの列を足せば、そのまま管理表になります。
この様式をひらくよくある質問
Q. 管理表は労働基準監督署に提出しますか。 A. 提出するものではありません。法定の帳簿でもないため、備え付けの義務もありません。ただし、調査のときに36協定の範囲に収まっているかを確かめる材料として見せることはできます。
Q. 管理監督者の分も作りますか。 A. 労働基準法上の管理監督者には労働時間の規定が適用されませんが、労働時間の状況を把握する義務は別にあります。健康の管理のために時間を把握しておく必要があるため、別の欄で持っている会社があります。
Q. 年度の起算は4月ですか。 A. 36協定で定めた期間の起算日によります。協定の起算が10月なら、年度の累計も10月から数えます。4月と思い込んで数えると、区切りの前後で二重や空白が出ます。
Q. 休日労働は時間外に含めますか。 A. 法定休日に働いた時間は、時間外労働とは別に数える場面があります。管理表では列を分けておき、協定で定めた回数と時間の両方を見られる形にします。
Q. 変形労働時間制を取っている場合はどうしますか。 A. 時間外労働に当たる時間の出し方が変わります。1日・1週・対象期間のそれぞれで判断することになるため、管理表に入れる数字の出し方を先に決めておきます。
Q. パートやアルバイトも管理表に入れますか。 A. 所定を超えて働くことがあるなら入れます。36協定の対象になる労働者であれば、上限の考え方は同じです。所定労働時間が人によって違うので、その列も持っておくと計算が合います。
Q. 表計算ソフトとシステムのどちらがよいですか。 A. 人数が少なければ表計算ソフトで足ります。人数が増えると転記が負担になるので、勤怠のシステムから月の合計を出せる形にしておくと続きます。残りを並べ替えて見られるかが選ぶときの基準になります。
Q. 上限を超えてしまった場合、どうしますか。 A. 起きたことは取り消せません。原因を確かめ、同じことが起きない形にします。特定の人に仕事が集まっていたのか、見る仕組みが無かったのか。表を作る前の月に戻して原因を見ると、次の手が決まります。
Q. 36協定を結んでいない場合はどうなりますか。 A. 時間外労働や休日労働をさせることができません。管理表の上限をどう置くかという話の前に、協定そのものが要ります。結んでいない状態で残業をさせているなら、そこから直します。
Q. 部署ごとの合計を出す意味はありますか。 A. 1人に偏っているのか、部署全体が多いのかが分かれます。全体が多いなら人数か業務量の問題で、配置の入れ替えでは解決しません。打つ手が変わるので、合計も出しておきます。
Q. 勤怠のシステムに上限の警告機能があれば足りますか。 A. 気づくきっかけにはなります。ただし、警告が出るのは超えそうになってからで、そこから打てる手は限られます。月の途中で残りを見る形と組み合わせると効きます。
Q. 特別条項の回数は、どう数えますか。 A. 1年について6か月までが限度とされています。使った月に印を付ける列を作っておくと、回数がその場で分かります。年度の起算日から数える点に注意します。