勤怠と労務解説2026.05.14 公開KK-41

割増賃金の計算|単価の出し方と率の重なりを整理

目次

残業代の計算式は分かっている。ところが、単価をいくらにするかで毎回迷う。手当を入れるのか入れないのか、深夜と休日が重なったらどうなるのか。給与の担当が代わるたびに、計算の根拠が分からなくなる。

この記事では、割増賃金の計算を、単価の出し方・率の重なり・端数の3つに分けて整理します。読み終えたときに、自社の計算の根拠を1枚に書ける状態を目指します。

上限の管理のほうから確かめたい方は、こちらを読むと早いです。→ 時間外労働管理表の作り方

結論:単価 × 率 × 時間。迷うのは単価

割増賃金の計算とは、時間外労働・深夜労働・休日労働に対して、通常の賃金に一定の率を上乗せして支払う金額を出すことです。労働基準法にもとづくものです。

式そのものは単純です。1時間あたりの単価 × 割増率 × 時間数。3つを掛けるだけです。

ポイントはここです。迷うのは単価の出し方だけです。率は法令で決まっていて、時間数は出勤簿から出ます。単価をどう出すかで、金額が丸ごと変わります。

式は3つを掛けるだけ単価ここだけが迷う法令で決まっている時間数出勤簿から出る
単価・率・時間数という3つの要素を並べた層の図

だからこそ、単価の出し方を1枚に書いて残しておくのが要点になります。担当が代わっても同じ数字が出る形にします。

単価の出し方

1時間あたりの単価は、月によって決まっている賃金を、1か月あたりの所定労働時間数で割って出します。

分子になるのは、月給や各種の手当です。ただし、一部の手当は除いて計算することが定められています。

除くものとして挙げられているのは、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金です。

単価の分子入れるもの基本給役職手当一律に払う手当名前ではなく中身で見る除けるもの家族手当・通勤手当住宅手当(実費に応じるもの)臨時の賃金・賞与一律なら除けない
単価の分子に入れるものと、除くものを並べた比較の図

名前が同じでも中身で判断されます。「住宅手当」という名前でも、住宅の費用に応じて金額が変わるのではなく、全員に一律で同じ額を出しているなら、除けないとされています。一律の手当は基本的に入れると考えておくと、間違いが減ります。

分母は、1か月あたりの所定労働時間数です。月によって日数が違うので、1年間の所定労働時間を12で割った数を使うのが一般的な形です。毎月変わる数字を使うと、同じ残業時間でも月によって単価が変わります。

率は3つ

割増率は、法令で決まっています。覚えるのは3つです。

時間外労働は2割5分以上。1日8時間・1週40時間を超えた時間にかかります。

深夜労働は2割5分以上。午後10時から午前5時までの間の労働にかかります。

休日労働は3割5分以上。法定休日に働いた時間にかかります。

3つの率種類時間外労働2割5分以上深夜労働2割5分以上休日労働3割5分以上月60時間超の時間外5割以上
時間外・深夜・休日の3つの率を並べた表

月60時間を超える時間外労働は5割以上とされています。中小企業にも適用が広がっているため、60時間の線を超える人がいる会社は、そこから率が変わる形になります。

自社の就業規則で法定より高い率を定めている場合は、そちらが効きます。法定は下限なので、上回るぶんには問題ありません。

率が重なるとき

深夜と時間外が重なる場面があります。夜10時を過ぎて残業した場合です。

このとき、率は足します。時間外の2割5分と深夜の2割5分で、合わせて5割以上になります。掛けるのではありません。

休日労働と深夜が重なる場合は、休日の3割5分と深夜の2割5分で、合わせて6割以上です。

重なったときは足す重なり合計時間外+深夜5割以上休日+深夜6割以上法定休日+8時間超休日の3割5分のまま所定休日+週40時間超時間外として計算
時間外・深夜・休日が重なったときの率を並べた表

法定休日の労働には、時間外の割増はかかりません。休日労働として3割5分で計算します。8時間を超えても、時間外の2割5分を足す形にはなりません。ここは混ざりやすいところです。

法定休日と、会社が定めた休日(所定休日)は別です。所定休日に働いた場合は、週40時間を超えていれば時間外として計算します。就業規則でどの曜日が法定休日かを決めておかないと、判断できません。

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実際に使える様式が必要な方へ

賃金台帳の様式は、商い屋の配布ページにあります。この記事は計算の側の話です。

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端数の扱い

計算の途中で端数が出ます。扱いには決まりがあります。

1か月の時間外労働の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる処理が認められているとされています。

1時間あたりの単価や、割増賃金の総額に1円未満の端数が出た場合の処理にも、認められている方法があります。

端数の扱い対象扱い1か月の時間数30分未満切捨て・以上切上げ1円未満の金額認められた処理による日ごとの切捨て認められない共通就業規則か賃金規程に書く
時間数と金額で、端数の扱いが違うことを並べた表

日ごとに切り捨てる形は認められていません。「毎日15分未満は切り捨て」という運用は、賃金の一部を支払わないことになります。端数の処理は、月の合計に対して行います。

どの処理を取るかを決めたら、就業規則か賃金規程に書いておきます。書いていないと、担当によって扱いが変わります。

固定残業代がある場合

固定残業代(みなし残業代)を払っている場合も、計算が要らなくなるわけではありません。

実際の時間外労働が、固定残業代に相当する時間を超えたら、その差額を払うことになります。超えていないかを毎月確かめる必要があります。

そのためには、固定残業代が何時間分かがはっきりしている必要があります。金額だけを決めていて時間数が決まっていないと、差額が出せません。

賃金台帳や給与明細では、基本給と固定残業代を分けて表示します。分かれていないと、単価の計算の分子がいくらかも分からなくなります。

固定残業代の時間数が長すぎる場合、その設定自体が問題になることがあります。自社の設定については、社会保険労務士に確かめるのが確実です。

計算の根拠を1枚に残す

担当が代わっても同じ数字が出るように、計算の根拠を1枚にまとめておきます。

書くのは5つです。単価の分子に入れる手当と除く手当。分母に使う1か月の所定労働時間数とその出し方。適用する率。端数の処理。固定残業代の時間数。

計算の根拠に残す5つ残すもの中身分子に入れる手当入れるものと除くもの分母の時間数1年の所定を12で割る適用する率法定か上乗せか端数の処理時間と金額の別
計算の根拠として残す5項目を並べた表

この1枚があると、給与の計算を引き継ぐときに説明が短くなります。監督署の調査で計算の根拠を聞かれたときにも、そのまま出せます。

賃金規程を変えたら、この1枚も直します。規程と実際の計算がずれているのが、いちばん見つかりやすい形です。

給与の担当が代わるときの引き継ぎ

割増賃金の計算は、担当が代わるときにいちばんずれます。引き継ぐときに渡すものを決めておきます。

渡すのは4つです。計算の根拠を書いた1枚、賃金規程、直近3か月分の計算の実例、迷ったときの相談先。

計算の実例がいちばん効きます。規程を読んでも、実際の数字に当てはめる段で迷います。深夜と時間外が重なった月、月60時間を超えた人、固定残業代の差額が出た月。変わった形が入っている月を選んで渡します。

相談先も書いておきます。顧問の社会保険労務士がいるなら連絡先を、いないなら所轄の労働基準監督署の窓口を。迷ったときに聞ける先があると、自己流で決める形を避けられます。

引き継いだ後、最初の1か月は前任者に確かめてもらう形にすると、ずれが早く見つかります。

賃金台帳との対応

割増賃金は、賃金台帳に記入する項目にも関わります。台帳には、労働時間数、時間外労働の時間数、深夜労働の時間数、休日労働の時間数を書くことが求められています。

計算した金額だけでなく、もとになった時間数が台帳に残る形になります。ここが空だと、計算の根拠を示せません。

台帳の時間数と、管理表や出勤簿の時間数がそろっているかを、年に1回は確かめます。ずれていると、どちらかの集計が間違っています。

賃金台帳の保存は、労働関係に関する重要な書類として一定の期間が定められています。計算の根拠を書いた1枚も、同じつづりに入れておくと、後から説明できます。

未払いに気づいたときの直し方

計算の誤りに気づいたら、直す手順を決めておきます。慌てて一部だけ直すと、かえって説明できなくなります。

1つ目は、いつからずれていたかを確かめることです。規程を変えた月、担当が代わった月、手当を新設した月。変わり目にずれが生まれます。

2つ目は、影響する人と金額を出すことです。1人だけなのか、同じ条件の人全員なのか。単価の出し方の誤りなら、全員に影響します。

3つ目は、支払いと説明です。さかのぼって支払い、本人に内容を説明します。なぜずれたかまで説明すると、納得が得られやすくなります。

4つ目は、再発しない形にすることです。計算の根拠の1枚を直し、次の月から反映します。

賃金の請求権には時効の定めがあります。どこまでさかのぼるかは、社会保険労務士に確かめるのが確実です。

まとめ

割増賃金の計算は、単価 × 率 × 時間数です。迷うのは単価の出し方だけで、率は法令で決まっています。

単価は、月によって決まっている賃金を1か月あたりの所定労働時間数で割って出します。家族手当・通勤手当・住宅手当などは除けますが、一律に支払っている手当は除けないとされています。

率は、時間外2割5分以上、深夜2割5分以上、休日3割5分以上。月60時間を超える時間外は5割以上です。重なるときは足します。法定休日の労働には時間外の割増を重ねません。

端数は月の合計に対して処理します。日ごとに切り捨てる形は取れません。自社の計算の根拠を1枚にまとめ、賃金規程と合っているかを確かめます。判断に迷う点は、所轄の労働基準監督署か社会保険労務士に確かめるのが確実です。

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実際に使える様式が必要な方へ

賃金台帳の様式が、商い屋の配布ページにあります。時間外・深夜・休日の時間数を分けて書く欄が入っています。

商い屋で様式をさがす

よくある質問

Q. 単価の分母は、毎月の所定労働時間でもよいですか。 A. 月ごとの所定労働時間を使うと、同じ残業時間でも月によって単価が変わります。1年間の所定労働時間を12で割った数を使うのが一般的です。どちらを使うかは賃金規程に書いておきます。

Q. 時給で働く人の単価はどう出しますか。 A. 時給がそのまま1時間あたりの単価になります。日給の場合は、1日の所定労働時間で割って出します。手当の扱いは月給の場合と同じ考え方になります。

Q. 役職手当は単価に入れますか。 A. 除くことが認められている手当に挙げられていないため、入れる形になります。名前ではなく中身で判断されるため、迷う手当があれば社会保険労務士に確かめます。

Q. 法定休日はどの曜日ですか。 A. 就業規則で定めます。定めていない場合、週のどの日が法定休日かが分からず、休日労働の割増の判断ができません。週1日または4週4日の休日を与えることが求められています。

Q. 深夜の時間帯は変えられますか。 A. 午後10時から午前5時までが原則です。地域や業務によって例外が定められている場合があります。自社が該当するかは所轄の労働基準監督署に確かめます。

Q. 月60時間を超えた分の割増は、代替休暇でもよいですか。 A. 労使協定を結べば、5割のうち引き上げ分に相当する部分を有給の休暇に代えられる仕組みがあります。協定で、休暇の単位や与える期間を定めることになります。

Q. 管理監督者にも深夜の割増は必要ですか。 A. 労働時間や休日の規定が適用されない管理監督者でも、深夜業の割増は必要とされています。ここを見落として支払っていない会社があります。時間の把握が要ります。

Q. 割増賃金を払っていなかったことに気づいたら。 A. さかのぼって支払うことになります。賃金の請求権には時効の定めがあるため、どこまで戻るかは確かめます。気づいた時点で計算の根拠を直し、同じことが起きない形にします。

Q. 賞与にも割増賃金はかかりますか。 A. 賞与そのものは割増の対象ではありませんが、単価の計算では、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金は分子から除かれる形になります。除くものの一覧で確かめます。

Q. 遅刻や早退があった月の計算はどうなりますか。 A. 実際に働いた時間で見ます。遅刻した分を、その日の残業と相殺してよいかは、1日8時間・1週40時間を超えたかどうかで判断します。日の合計で見るのが基本になります。

Q. 端数処理を変える場合、いつから適用しますか。 A. 賃金規程を変えてからになります。労働者に不利益になる変更にあたる場合は、手続きに注意が要ります。変えた月と、変えた内容を記録に残します。

Q. 手当を新設したとき、単価の計算は変わりますか。 A. 除くことが認められている手当に当たらなければ、分子に入ります。単価が上がるので、割増賃金の額も変わります。手当を作るときに、割増の分子に入るかを確かめる手順を入れておきます。

Q. 割増賃金の計算を給与ソフトに任せていますが、確かめる必要はありますか。 A. ソフトは設定どおりに計算します。設定が正しいかは会社が確かめるものです。単価の分子に入れる手当の設定、所定労働時間の設定、端数の設定。年に1回は見ておきます。