安全衛生管理体制|人数で変わる選任と届出を整理
目次
従業員が増えてきた。そろそろ何か選任しないといけないらしい、とは聞いている。けれど、何人から何を置くのかが分からない。調べると衛生管理者、産業医、安全管理者と名前が並んで、どれが自社に要るのか決められない。
この記事では、安全衛生管理体制を、人数の境目・誰を選ぶか・届出と記録の3つに分けて整理します。読み終えたときに、自社に何が要るかを人数から判断できる状態を目指します。
結論:境目は10人・50人・100人
安全衛生管理体制とは、労働安全衛生法にもとづいて、事業場ごとに置く人と組織のことです。会社単位ではなく事業場ごとに判断します。
境目になる人数は3つです。常時10人以上、常時50人以上、常時100人以上。業種によって基準が変わるものもありますが、事務所中心の会社では、この3つで見当が付きます。
ポイントはここです。50人がいちばん大きな段差です。衛生管理者、産業医、衛生委員会の3つが同時に必要になり、健康診断の結果の報告も加わります。49人と50人では、やることの量がかなり違います。
数えるのは、常時使用する労働者の数です。パートやアルバイトも、常態として使用しているなら含める形になります。人数の数え方に迷う場合は、所轄の労働基準監督署に確かめるのが確実です。
10人以上で置くもの
常時10人以上50人未満の事業場では、安全衛生推進者または衛生推進者を選任するとされています。業種によってどちらになるかが分かれます。
推進者は、資格者証のような形の資格が要るわけではありませんが、一定の実務の経験や、都道府県労働局長が定める講習の修了などが要件として挙げられています。
選任したら、事業場の見やすい場所に氏名を掲示するなどの方法で周知することとされています。届出を出す形ではなく、掲示などで知らせる形です。
この段階でやっておくと後が楽なのは、健康診断の実施と記録です。人数が少なくても健診の義務はあります。50人になってから慌てて整えるより、10人の段階で型を作っておくほうが負担が軽くなります。
50人以上で増えるもの
常時50人以上になると、置くものが一気に増えます。挙げられているのは次のものです。
衛生管理者。免許を持つ人などから選任し、所轄の労働基準監督署に報告することとされています。人数に応じて必要な数が増えます。
産業医。医師の中から選任し、こちらも報告が求められます。定期的に事業場を巡視することが業務に入っています。
衛生委員会。毎月1回以上開催し、議事の概要を労働者に周知し、記録を3年間保存するとされています。
ストレスチェック。常時50人以上の事業場で実施し、結果を報告することとされています。
定期健康診断結果報告書。健診を行ったあと、所轄の労働基準監督署に提出します。
このうち、記録が残る形になっているのは衛生委員会です。毎月開いた議事の概要を3年保存するので、開いていなければすぐに分かります。逆に言えば、ここを回していることが体制の証拠になります。
100人以上で増えるもの
業種によっては、常時100人以上で総括安全衛生管理者の選任が求められます。事業場の安全と衛生の業務を統括する立場で、事業の実施を統括管理する人が就く形になります。
業種によって人数の基準が変わり、屋外の作業が中心の業種では100人、製造や商業では300人、その他では1,000人といった形で分かれるとされています。自社の業種がどこに当たるかを先に確かめます。
事務所が中心の会社では、100人を超えても総括の選任までは求められないことがあります。ここは人数だけでなく業種で決まるため、人数の表だけを見て判断しないのが要点です。
選任には期限がある
選任が必要になったら、14日以内に選任することとされています。人数が基準を超えた日から数えます。
報告が求められるものは、選任したあと遅滞なく提出します。衛生管理者と産業医は報告の対象です。推進者は掲示などによる周知で足ります。
実務でつまずくのは、人数が増えたことに気づくのが遅れることです。採用が続いた月に、いつの間にか50人を超えていた、という形です。
防ぎ方は単純で、毎月の給与の計算のときに人数を数えることです。すでに毎月やっている作業なので、数字を1つ控えるだけで済みます。45人を超えたら準備を始める、と決めておけば慌てません。
誰を選ぶか
名前だけ置いても回りません。選ぶときに見るのは3つです。
1つ目は、要件を満たしているかです。衛生管理者は免許が要ります。社内にいなければ、受験してもらうか、外部から採用するか、資格を持つ人に職務を兼ねてもらうことになります。
2つ目は、事業場にいる人かです。衛生管理者は、その事業場に所属している必要があります。本社の人が名前だけ入っている形は取れません。
3つ目は、時間を取れる人かです。衛生管理者は少なくとも毎週1回、作業場を巡視することとされています。巡視の時間を業務として確保できる人を選びます。
産業医は、社外の医師に依頼するのが一般的です。地域の医師会や、産業医を紹介する仕組みを使って探します。契約の形と、月に何回来てもらうかを先に決めておくと、話が早く進みます。
記録として残るもの
体制を作ると、記録が増えます。残るものを整理しておくと、監督署の調査でそのまま出せます。
選任の報告書の控え。衛生管理者と産業医について、提出したものの控えを残します。
衛生委員会の議事の概要。毎月1回以上、3年保存です。開催の日、出席者、議題、決めたことを書きます。
巡視の記録。衛生管理者の巡視と、産業医の巡視について、いつ回って何を見たかを残します。
健康診断の結果の報告書の控え。提出した日が分かる形で残します。
これらは、健康診断個人票とは別のつづりにします。個人の情報が入るものと、体制の記録は、見られる範囲が違います。
50人になる前にやっておくこと
49人から50人になる月に全部を始めようとすると、間に合いません。先に動けるものが3つあります。
1つ目は、衛生管理者の免許を取ってもらうことです。試験は受けてすぐ合格するとは限りません。人数が45人を超えたあたりで、候補を決めて受験の準備に入ります。
2つ目は、産業医を探すことです。引き受けてくれる医師が近くにいるとは限りません。地域の医師会に相談してから契約までに、数か月かかることがあります。
3つ目は、衛生委員会の型を決めることです。委員の人数、開催の曜日、議題の並び、議事の様式。決めておけば、50人になった月から回せます。
この3つは、49人のうちにやっても無駄になりません。推進者の段階でも、同じ形で月1回の話し合いを回している会社があります。人数が増えたときに、名前を委員会に変えるだけで済みます。
監督署の調査で見られるところ
安全衛生の体制は、書類だけで確かめられる部分が多くあります。見られやすいのは4つです。
選任がされているか。報告の控えと、実際に在籍しているかを見られます。
衛生委員会が毎月開かれているか。議事の概要の日付が並んでいれば分かります。2か月飛んでいるといった形はすぐ見つかります。
巡視が行われているか。衛生管理者は少なくとも毎週1回です。記録が無ければ、行っていないものとして扱われます。
健康診断が行われ、報告されているか。受診率と、報告書の控えを見られます。
この4つは、どれもその日に作れるものではありません。毎月の作業として回しておくことが、そのまま備えになります。
まとめ
安全衛生管理体制の境目は、常時10人・50人・100人です。数えるのは会社ではなく事業場ごとで、常時使用する労働者の数で見ます。
10人以上50人未満では、安全衛生推進者または衛生推進者を選任し、掲示などで周知します。50人がいちばん大きな段差で、衛生管理者・産業医・衛生委員会・ストレスチェック・健診結果の報告が同時に加わります。
100人以上で総括安全衛生管理者が必要になる場合がありますが、業種によって基準の人数が変わります。人数の表だけで判断せず、自社の業種を先に確かめます。
選任は、必要になった日から14日以内です。人数が増えたことに気づくのが遅れないよう、毎月の給与の計算のときに人数を控えておきます。自社に何が要るかは、所轄の労働基準監督署に業種と人数を示して確かめるのが確実です。
よくある質問
Q. 事業場が複数ある場合、人数は合計しますか。 A. 事業場ごとに数えます。本社40人、支店30人であれば、どちらも50人には届きません。ただし、実態として1つの事業場と見られる場合もあるため、判断に迷うときは所轄の労働基準監督署に確かめます。
Q. パートやアルバイトも人数に入れますか。 A. 常時使用する労働者に当たるかどうかで判断します。週の勤務日数が少なくても、常態として働いているなら含める形になります。派遣で来ている人の扱いは別の考え方があるため、あわせて確かめます。
Q. 衛生管理者の免許はどうやって取りますか。 A. 免許試験を受けるのが一般的です。受験には実務の経験などの要件があります。第一種と第二種があり、業種によってどちらが必要かが変わります。事務所中心の会社では第二種で足りることがあります。
Q. 衛生委員会は、どんな議題で開けばよいですか。 A. 労働者の健康障害を防止するための対策、健康の保持増進のための対策などが挙げられています。健診の結果の傾向、長時間労働の状況、職場の環境について話す形が一般的です。議題が思い付かないときは、健診と労働時間の数字を持ち込むと話が進みます。
Q. 産業医は毎月来てもらう必要がありますか。 A. 産業医の職務として、定期的に作業場を巡視することが挙げられています。頻度は条件によって変わる形があるため、契約の前に確かめます。来てもらう回数と、何をしてもらうかを決めておくと形になります。
Q. 50人を一時的に超えた場合も選任が要りますか。 A. 常時使用する労働者の数で見るため、一時的な繁忙で一瞬超えた場合の扱いは分かれます。継続して超える見込みがあるなら、早めに準備を始めます。判断は所轄の労働基準監督署に確かめます。
Q. 選任したあと、担当者が辞めたらどうしますか。 A. 空白のままにはできません。速やかに次の人を選任し、報告が必要なものは出し直します。1人しか要件を満たす人がいない状態は、辞めた瞬間に体制が崩れます。2人目の準備を平時から進めておきます。
Q. 衛生委員会の議事は、どこまで詳しく書きますか。 A. 議事の概要を周知することとされているため、話した内容の要点が分かる程度で足ります。開催の日、出席者、議題、決めたこと、次回の予定の5つが入っていれば、後から見て流れが追えます。
Q. 衛生委員会の委員は、どうやって決めますか。 A. 議長は総括安全衛生管理者などが務め、他の委員の半数は労働者側から推薦を受けて指名することとされています。会社が一方的に全員を決める形は取れません。推薦を受けた記録も残しておきます。
Q. ストレスチェックの結果は、会社が見られますか。 A. 個人の結果は、本人の同意が無ければ事業者に提供されない形になっています。集団の分析の結果は、職場の改善に使うことができます。実施の記録と、個人の結果の扱いを分けて考えます。
Q. 推進者と衛生管理者を同じ人が続けて務めてもよいですか。 A. 要件を満たしていれば続けられます。50人を超えた時点で求められるのは衛生管理者なので、免許を取っておいてもらう形が自然です。推進者の段階で候補を決めておくと、切り替えが早く済みます。
Q. 事業場という単位は、どう決まりますか。 A. 場所的に独立していて、組織としてまとまっているかどうかで見る形が一般的です。同じ建物の中の別のフロアは1つの事業場と見られることが多く、離れた営業所は別になります。判断に迷うときは所轄の労働基準監督署に確かめます。