年間教育計画表の作り方|法定教育から先に置く
目次
年間教育計画表を作るように言われて手が止まるのは、何から埋めるかが決まっていないからです。研修の一覧から作り始めると、やりたいことが並んだだけの表になり、予算も日程も通りません。
順番があります。法令で実施が求められている教育を先に置くと、残った枠に任意の研修を入れる形になり、計画が現実的になります。この記事では、年間教育計画表を、先に置くもの、列の決め方、1年への配り方、実績の残し方の順に整理します。どの教育が義務になるかは業種と作業によって違います。自社の扱いは所轄の労働基準監督署に確認してください。
結論:法定教育 → 資格の更新 → 任意の研修の順
年間教育計画表には法令上の様式がありません。作り方も自由ですが、埋める順番を間違えると通らない計画になります。
| 順番 | 入れるもの | 動かせるか |
|---|---|---|
| 1 | 法定教育(安全衛生教育など法令で求められるもの) | 動かせない |
| 2 | 資格の更新講習・再教育 | 期限があるので動かせない |
| 3 | 階層別研修・職種別研修 | 動かせる |
| 4 | 自己啓発の支援 | 動かせる |
1と2は日程と費用が先に決まります。ここを置いてから3と4を入れると、繁忙期を避けられて、予算も残った枠で考えられます。
逆に3から作ると、あとから1と2が割り込んで、組み直しになります。研修会社の提案から作り始めると、この形になりやすいところです。
先に置く法定教育
代表的なものを挙げます。自社に何がかかるかは業種と作業で変わるので、一覧を作るところから始めます。
| 教育 | 対象・時期 | 根拠 |
|---|---|---|
| 雇入れ時の安全衛生教育 | 労働者を雇い入れたとき | 労働安全衛生法59条1項 |
| 作業内容変更時の教育 | 作業内容を変更したとき | 同59条2項 |
| 特別教育 | 危険・有害な業務に就かせるとき | 同59条3項 |
| 職長等の教育 | 新たに職務につく職長等 | 同60条 |
| 危険有害業務従事者への教育 | 現に従事している者(努力義務) | 同60条の2 |
| 安全衛生教育(能力向上教育など) | 通達で示された周期 | 指針・通達 |
雇入れ時教育は、入社のたびに発生します。年間計画に「毎月」として置くのではなく、入社の予定に紐づけて置くほうが実態に合います。4月入社が多い会社なら4月に固まります。
一覧を作るときは、すでに受けている人と、これから受ける人を分けて数えます。全員が未受講なら1回で済みますが、数人だけなら外部の講習へ出すほうが安く済むことがあります。人数で実施のしかたが変わるところです。
特別教育は作業から洗い出す
特別教育は、どの作業をやるかで必要なものが決まります。人から考えると漏れます。
- その事業場でやっている作業を並べる
- 作業ごとに、特別教育が必要かを確認する
- 必要なら、その作業に就く人を並べる
新しい設備を入れたときが、いちばん漏れやすいタイミングです。設備の導入を決める段階で、教育が必要かを確認する手順にしておくと防げます。
一部の特別教育は、一定期間ごとの再教育が通達で示されているものがあります。免状のように期限が印字されないため、一覧表で管理しないと気づけません。資格と期限の管理は保有資格一覧表の作り方にまとめています。
表に入れる列
年間教育計画表は、計画と実績を同じ表で持つのが実務的です。別々にすると、実績の側が埋まりません。
| 列 | 内容 |
|---|---|
| 教育名 | 制度の名称か社内の研修名 |
| 区分 | 法定/資格更新/任意 |
| 根拠 | 条文・通達、または社内規程 |
| 対象者 | 全員/新入社員/職長/特定の作業に就く人 |
| 予定月 | 4月〜3月のどこか |
| 実施日 | 実施したら書く |
| 受講者数 | 実施したら書く |
| 講師・実施機関 | 内部/外部の名称 |
| 費用 | 予算と実績 |
| 記録の保管場所 | 受講記録・修了証の置き場 |
「区分」の列が効きます。法定のものだけを絞り込めるようになるので、年度末に「法定の教育が全部済んだか」を確認できます。
「根拠」の列も入れておきます。条文の番号が入っていれば、監督署の調査で聞かれたときにその場で答えられます。なぜこの教育をやるのかが残るため、担当者が変わっても削られません。任意の研修は社内規程や方針を書いておきます。
予定月と実施日を分ける
1つの列に「4月(済)」のように書くと、集計できません。予定月と実施日を別の列にします。
- 予定月が入っていて実施日が空欄 … まだ
- 両方入っている … 済み
- 実施日が入っていて予定月が空欄 … 計画外で実施した
3つ目が分かるのが利点です。計画に無い教育が発生したなら、来年はそれを計画に入れます。
1年への配り方
月ごとの配り方には、避けたい形があります。
| 形 | 結果 |
|---|---|
| 4月に全部寄せる | 入社手続きと重なって回らない |
| 毎月1つずつ均等に置く | 繁忙期に当たって流れる |
| 繁忙期を空けて配る | これが現実的 |
まず繁忙期を塗りつぶします。そこに置いた研修は必ず流れます。そこを空けた残りに、動かせる研修を置きます。法定教育と更新講習は動かせないので、繁忙期と重なったら人を分けて回します。
一般には、次のような置き方が取られています。
- 4月 … 雇入れ時教育(新入社員)
- 5〜6月 … 資格の更新講習(期限が近い人)
- 7〜8月 … 階層別研修(繁忙期でなければ)
- 9〜10月 … 特別教育(新しい作業に就く人)
- 11〜12月 … 職長等の教育
- 1〜3月 … 積み残しの消化と、翌年度の計画づくり
1〜3月に消化の枠を空けておくのが要点です。1年のうち必ず流れるものが出るので、最後に拾う月を決めておきます。
教育で人が抜ける日数も、配るときに見ておきます。1日の講習に5人出せば5人日です。繁忙期に重なると、教育そのものより業務側の調整が難しくなります。人数の多い教育は、回を分けて別の月にまたがらせる形が取られます。
予算の通し方
法定教育と資格の更新は、やらない選択肢が無い費用です。ここを先に積み上げて、任意の研修を残りで考えると、予算の説明がしやすくなります。
| 区分 | 説明のしかた |
|---|---|
| 法定教育 | 根拠の条文を添える。実施しない選択肢が無い |
| 資格の更新 | 切れたら業務が止まる。止まる作業を書く |
| 任意の研修 | 目的と、やらなかった場合の影響を書く |
「切れたら何が止まるか」を書くと、更新講習の費用は通りやすくなります。
実績と記録の残し方
計画表は、実施したことを残すところまでやって意味が出ます。受講記録と修了証がどこにあるかを表に書いておきます。
| 教育 | 残すもの |
|---|---|
| 雇入れ時・作業内容変更時 | 実施日、内容、受講者、講師 |
| 特別教育 | 記録を3年間保存(労働安全衛生規則38条) |
| 職長等の教育 | 実施日、内容、受講者 |
| 資格の更新講習 | 修了証の写し、新しい有効期限 |
| 任意の研修 | 実施日、受講者、アンケートなど |
特別教育の記録は3年間の保存が定められています(労働安全衛生規則38条)。ここだけ法令上の期間があるので、他の記録と混ぜずに管理します。
なお、修了証は本人のものとして交付されるものが多くあります。会社は写しを取って保管し、一覧表に番号と日付を転記する形が一般的です。
法定の行だけを絞り込めるようにしておくのが、この確認のためです。区分の列が無いと、全部の行を目で追うことになり、年度末の確認が重くなってやらなくなります。
年度末にやること
1年の終わりに見るのは2つだけです。
- 区分が「法定」の行で、実施日が空欄のものが無いか
- 計画外で実施した教育があったか(来年の計画に入れる)
1が空欄のまま年度を越えると、実施していない記録が残ります。年度末に1回見るだけで足りるので、2月ごろに確認の日を決めておきます。2月に見れば、3月で拾える余地がまだあります。
作る前にそろえる3つの材料
白紙から考えると止まります。手元にそろえるものが3つあります。
| 材料 | どこから取るか | 何が分かるか |
|---|---|---|
| 作業の一覧 | 現場・各部署に聞く | どの特別教育が必要か |
| 保有資格一覧表 | 総務の管理表 | いつ更新講習が来るか |
| 入社・異動の予定 | 人事の予定 | 雇入れ時教育と作業内容変更時教育の時期 |
3つがそろえば、法定の部分は機械的に埋まります。やりたい研修を考えるのは、そのあとです。
作業の一覧は、部署に「今年から新しく始めた作業はあるか」と聞くだけでも足ります。設備や作業が増えたときだけ、必要な教育が増えるので、変化の部分だけ拾えば済みます。
前年の実績から引き算する
初めて作るとき以外は、前年の計画表をコピーして直すのがいちばん早い方法です。
- 前年の実績が入った表をコピーする
- 実施日・受講者数・費用の実績を消す
- 区分が「法定」の行はそのまま残す
- 資格の更新は、今年期限が来る人に入れ替える
- 任意の研修は、前年の結果を見て足し引きする
法定の行は毎年同じなので、そこを作り直す必要はありません。毎年変わるのは、更新が来る人と任意の研修だけです。
対象者の書き方
「全員」と書いた行が並ぶと、計画表が働きません。誰が受けるのかで分けます。
| 書き方 | 使う場面 |
|---|---|
| 全員 | 全社共通の教育(年1回の安全衛生など) |
| 新入社員 | 雇入れ時教育 |
| ◯◯作業に就く者 | 特別教育 |
| 職長・班長 | 職長等の教育 |
| 期限が◯年◯月までの者 | 資格の更新講習 |
| 名前を列挙 | 人数が少ないとき |
「◯◯作業に就く者」という書き方にしておくと、年度の途中で人が増えても計画を直さずに済みます。人の名前で書くと、異動のたびに表を直すことになります。
一方、資格の更新は名前で書くほうが確実です。期限が個人ごとに違うので、条件で書くと誰が該当するのか毎回数え直すことになります。
対象者を条件で書く場合は、その条件に当てはまる人が何人いるかを実施のときに数えます。「◯◯作業に就く者」なら、その作業に就いている人の数が対象者数になります。作業の担当が変われば人数も変わるので、実施した月の時点の数で書きます。
受講できなかった人を追う
全員対象の教育では、当日休んだ人が必ず出ます。ここを追う欄が無いと、そのまま抜けます。
- 対象者数と受講者数を両方書く
- 差がある行は、フォローの日を決める
- フォローした日も同じ行に書く
対象者数と受講者数の2列があれば、差を見るだけで追えます。1列だけだと「何人来たか」は分かっても「足りているか」が分かりません。
よくある質問
様式は決まっていますか
年間教育計画表そのものに法令上の様式はありません。ただし、特別教育の記録など、個々の教育の記録には保存の定めがあります。計画表は自由に作って構いません。
法定教育だけの計画表でもよいですか
構いません。むしろ、まず法定のものだけで作るのが確実な始め方です。任意の研修は翌年から足していけます。
雇入れ時教育は何を教えるのですか
労働安全衛生規則35条に教育すべき事項が挙げられているとされています。機械等の取扱い、安全装置の取扱い、作業手順、整理整頓、事故時の応急措置などです。業種によって省略できる項目の扱いがあるため、所轄の労働基準監督署に確認してください。
記録はいつまで保存しますか
特別教育の記録は3年間とされています(労働安全衛生規則38条)。他の教育は法令上の期間が定められていないものが多いので、社内で年数を決めて統一しておくのが扱いやすい形です。保存期間の全体像は法定帳簿の保存期間にまとめています。
外部の講習に行かせた場合も記録しますか
記録します。修了証の写しと、実施日・機関名を残します。会社が実施した教育と、外部で受けた教育を同じ表で管理すると、抜けを見つけやすくなります。
安全衛生委員会に出す資料と兼ねられますか
兼ねている事業場が多くあります。毎月の委員会で、その月の実施予定と前月の実績を1行見るだけで議題になります。委員会の議事録に計画表の写しを添えておくと、実施の記録としても残ります。
内部で講師を立てる場合、資格は要りますか
教育の種類によります。特別教育のように、科目ごとに十分な知識・経験を有する者が行うことが求められるものがあります。社内で立てる場合は、誰が講師だったかを記録に残しておきます。要件は所轄の労働基準監督署に確認してください。
計画どおりに実施できませんでした
計画外の月に実施した分は、実施日の列に実際の日を書くだけで足ります。できなかったものは、1〜3月の消化の枠か、翌年度の計画へ移します。空欄のまま年度を越えないことが大事です。
まとめ
年間教育計画表は、埋める順番で通るかどうかが決まります。法定教育、資格の更新講習、階層別・職種別研修、自己啓発の支援。この順で置くと、動かせないものが先に固まり、残りの枠で任意の研修を考えられます。
法定教育は、作業から洗い出すのが確実です。人から考えると、新しい設備を入れたときの特別教育が漏れます。設備の導入を決める段階で教育の要否を確認する手順にしておくと防げます。
表には予定月と実施日を別の列で持ちます。1つの列にまとめると集計できず、計画外で実施した分も見えません。「区分」の列を入れておけば、年度末に法定のものだけを絞り込んで確認できます。
配り方は、まず繁忙期を塗りつぶして、残りに置く形です。1〜3月に消化の枠を空けておくと、流れたものを拾えます。
記録は、特別教育だけ3年間の保存が定められています(労働安全衛生規則38条)。他と混ぜずに管理します。
初めて作るとき以外は、前年の表をコピーして実績を消すのが最短です。法定の行は毎年同じで、変わるのは更新が来る人と任意の研修だけです。対象者は「◯◯作業に就く者」のように条件で書いておくと、人が増えても表を直さずに済みます。
どの教育が義務になるかは業種と作業によって違います。自社の扱いは、所轄の労働基準監督署に確認してください。